Speciality Guidance
股関節外来では、変形性股関節症、大腿骨頭壊死、関節唇損傷など股関節周辺疾患に関する治療や相談を行っております。
股関節の軟骨がすり減る変形性股関節症や、血流障害で生じる大腿骨頭壊死に対し、人工関節置換術を行っています。これらの疾患では、骨盤の寛骨臼(ソケット)と大腿骨頭(ボール)の適合性が悪くなることが痛みの原因となりますが、人工股関節置換術により股関節が人工の部品に取り換えられ除痛効果が得られます。
図1 CTを用いた3次元術前計画
図2 人工股関節の脱臼シミュレーション
a) 大殿筋:股関節を伸展
b) 中・小殿筋:股関節を外転(歩行に重要)
c) 短外旋筋群(梨状筋、内・外閉鎖筋、上・下双子筋:赤下線):後方脱臼、排尿に関与
図3 股関節周囲筋
図4 前外側筋間進入
当科では前外側進入(中殿筋と大腿筋膜張筋の間:図3黄色破線、図4赤実線)による完全筋腱温存アプローチを用いています。今までの人工股関節置換術では、手術操作の易しさから、短外旋筋群(c)を切離、再縫合する後方進入(図3白実線)が多用されていました。しかし、再縫合された筋腱は術後早期に断裂しているという報告、後方進入の方が術後に人工関節の脱臼が多いという報告があり、術後しばらくは脱臼に注意した日常生活が後方進入では必要でした。また、短外旋筋群は骨盤の底を支えている筋肉であり、切離により術後の尿漏れが増えるという報告もあります。
当科で用いている前外側進入(図5、6)では、これら後方進入のデメリットがなく、完全な筋腱の温存が可能です。後方の安定性に関与する短外旋筋群(c)に対する手術侵襲がないため、後方脱臼の心配が少なく、術後注意する姿勢や脚の位置の制限、脚を固定する外転枕の使用の必要がありません。また、筋肉を切離しませんので、術後の回復が早く、術後2週の退院時には杖なしで歩行できる患者さんも多くみられます。
図5 前外側進入
図6 短外旋筋群だけでなく、中殿筋他全ての筋肉が温存される
当科では、綿密な計画の元、筋腱完全温存を目指して人工股関節置換術を行っています。
その結果、特別な患者さんを除いては、
術翌日:手術した側の脚伸展挙上可能、歩行開始、禁止姿勢なし、脚の固定枕の使用なし
術後1週:階段昇降開始
術後2週:杖歩行(杖なしも可能)の安定、自宅退院
が現状で可能になります。
(文責:小山博史)
股関節は人間の動作の要でもあり、障害が生じるとスポーツ活動はもちろん日常生活動作にも大きな影響を及ぼします。近年、大腿骨と寛骨臼(=骨盤)のインピンジメント(Femoro-Acetabular Impingement:FAI(図1))が注目されています。インピンジメントとは衝突を表す言葉です。FAIとは寛骨臼縁と大腿骨が衝突することで、寛骨臼縁にある関節唇や関節軟骨に損傷が生じ、股関節に痛みが生じる病態です。当科ではFAIから生じた股関節唇損傷に対し、外来での保存加療でよくならない場合、股関節鏡を用いた関節唇形成術を行っております。股関節鏡手術は低侵襲な手術であり、正確な診断、軟骨の病気である変形性股関節症への進行の抑制、早期のスポーツ・社会復帰が可能です。しかし、膝など他の関節の鏡視下手術と比較し、手術手技が難しいことから、股関節鏡手術ができる病院は限られています。
図1:FAI
FAIには大腿骨に骨の膨隆があるCAM type、寛骨臼の膨隆があるPincer type、両者が混合して存在するMixed typeがあります。
図2:A)単純股関節正面 B)Dunn撮影
A) では大腿骨に明らかな異常はないが、Dunn撮影にて大腿骨頚部前外側に骨膨隆部位(CAM病変)がみられる。