浜松医科大学医学部附属病院

診療科案内

Speciality Guidance

股関節外来

外来診療日:毎週金曜日・午前(9:00-12:00)

股関節外来では、変形性股関節症、大腿骨頭壊死、関節唇損傷など股関節周辺疾患に関する治療や相談を行っております。

当科で行っている手術の特徴

人工股関節置換術

股関節の軟骨がすり減る変形性股関節症や、血流障害で生じる大腿骨頭壊死に対し、人工関節置換術を行っています。これらの疾患では、骨盤の寛骨臼(ソケット)と大腿骨頭(ボール)の適合性が悪くなることが痛みの原因となりますが、人工股関節置換術により股関節が人工の部品に取り換えられ除痛効果が得られます。

  • 術前計画
    股関節の形状は個人差が非常に多く様々です。生まれつきの骨盤や大腿骨の形状の異常(形成不全など)、関節症進行による骨の変形が著明な場合も非常に多くみられます。これら股関節形状のバリエーションに対応し術前計画をたてるには、影絵である2次元のレントゲン写真では限界があります。そこで、CT画像からソフトウェアを用いて、個々の股関節形状に合った、いわばオーダーメイドといえる3次元術前計画をしています(図1)。このソフトウェアでは、設置後の人工股関節を動かすこともでき、術後脱臼のなどの原因となる人工関節の衝突を術前にシミュレーションすることが可能です(図2)。

図1 CTを用いた3次元術前計画
図1 CTを用いた3次元術前計画

図2 人工股関節の脱臼シミュレーション
図2 人工股関節の脱臼シミュレーション

  • 完全筋腱温存アプローチ
    股関節は他の関節と違い、体の奥の方にあって多くの筋肉に囲まれています(図3)。

 a) 大殿筋:股関節を伸展

 b) 中・小殿筋:股関節を外転(歩行に重要)

 c) 短外旋筋群(梨状筋、内・外閉鎖筋、上・下双子筋:赤下線):後方脱臼、排尿に関与

図3 股関節周囲筋
図3 股関節周囲筋

図4 前外側筋間進入
図4 前外側筋間進入

当科では前外側進入(中殿筋と大腿筋膜張筋の間:図3黄色破線、図4赤実線)による完全筋腱温存アプローチを用いています。今までの人工股関節置換術では、手術操作の易しさから、短外旋筋群(c)を切離、再縫合する後方進入(図3白実線)が多用されていました。しかし、再縫合された筋腱は術後早期に断裂しているという報告、後方進入の方が術後に人工関節の脱臼が多いという報告があり、術後しばらくは脱臼に注意した日常生活が後方進入では必要でした。また、短外旋筋群は骨盤の底を支えている筋肉であり、切離により術後の尿漏れが増えるという報告もあります。
当科で用いている前外側進入(図5、6)では、これら後方進入のデメリットがなく、完全な筋腱の温存が可能です。後方の安定性に関与する短外旋筋群(c)に対する手術侵襲がないため、後方脱臼の心配が少なく、術後注意する姿勢や脚の位置の制限、脚を固定する外転枕の使用の必要がありません。また、筋肉を切離しませんので、術後の回復が早く、術後2週の退院時には杖なしで歩行できる患者さんも多くみられます。

図5 前外側進入
図5 前外側進入

図6 短外旋筋群だけでなく、中殿筋他全ての筋肉が温存される
図6 短外旋筋群だけでなく、中殿筋他全ての筋肉が温存される

 当科では、綿密な計画の元、筋腱完全温存を目指して人工股関節置換術を行っています。
 その結果、特別な患者さんを除いては、
  術翌日:手術した側の脚伸展挙上可能、歩行開始、禁止姿勢なし、脚の固定枕の使用なし
  術後1週:階段昇降開始
  術後2週:杖歩行(杖なしも可能)の安定、自宅退院
 が現状で可能になります。

 (文責:小山博史)

股関節鏡下関節唇形成術

股関節は人間の動作の要でもあり、障害が生じるとスポーツ活動はもちろん日常生活動作にも大きな影響を及ぼします。近年、大腿骨と寛骨臼(=骨盤)のインピンジメント(Femoro-Acetabular Impingement:FAI(図1))が注目されています。インピンジメントとは衝突を表す言葉です。FAIとは寛骨臼縁と大腿骨が衝突することで、寛骨臼縁にある関節唇や関節軟骨に損傷が生じ、股関節に痛みが生じる病態です。当科ではFAIから生じた股関節唇損傷に対し、外来での保存加療でよくならない場合、股関節鏡を用いた関節唇形成術を行っております。股関節鏡手術は低侵襲な手術であり、正確な診断、軟骨の病気である変形性股関節症への進行の抑制、早期のスポーツ・社会復帰が可能です。しかし、膝など他の関節の鏡視下手術と比較し、手術手技が難しいことから、股関節鏡手術ができる病院は限られています。

図1:FAI
図1:FAI

FAIには大腿骨に骨の膨隆があるCAM type、寛骨臼の膨隆があるPincer type、両者が混合して存在するMixed typeがあります。

  • 診断~保存加療
    FAIは88%の患者さんに鼠径部痛(=脚のつけねの痛み)があると報告されています。代表的な診察の方法には、anterior impingement testといった股関節を屈曲・内旋・内転させることで、鼠径部痛を誘発させるテストがあります。このテストが陽性の場合は、股関節唇損傷の可能性があります。次に、FAIや寛骨臼形成不全(=骨盤の形態異常)など、股関節唇損傷を引き起こす骨形態がないかレントゲン検査を行います。Dunn撮影という特殊な撮影法で骨形態の異常がわかることもあります(図2)。また、股関節唇損傷の有無については造影CTまたはMRI検査を行います。股関節唇損傷と診断がついた場合、まず行うのは体の硬さなどのコンディション評価です。そのうえで、リハビリによる保存加療を行います。約2-3か月の保存加療の効果がない場合に股関節鏡手術を考慮します。

図1:FAI
図2:A)単純股関節正面 B)Dunn撮影

A) では大腿骨に明らかな異常はないが、Dunn撮影にて大腿骨頚部前外側に骨膨隆部位(CAM病変)がみられる。

  • 術前計画
    当科では3Dプリンターにより、骨形態を3次元的に把握し手術に役立てています。またFAI シミュレーションを行い、どこで骨が衝突しているか評価を行います。

  • 股関節鏡手術
    (図3)
    CAM type FAIによる股関節唇損傷例。周囲の炎症所見を伴う股関節唇損傷があります(A)。また、関節唇の不安定性とともに寛骨臼辺縁の軟骨が剥がれています(B)。関節唇縫合を行い(C)、関節唇の安定化を得ます(D)。次に関節唇損傷、軟骨剥離を引き起こしたCAM病変の切除を行います(E)。最後に関節包の縫合をします(F)。完全に関節包を縫合することが術後早期の股関節安定化には必須であり重要な処置です(G)。術後Dunn撮影にて、図2でみられたCAM病変が十分に切除されていることを確認します。 また、関節唇の損傷・変性が著しい患者さんに対しては、腸脛靭帯を用いた関節鏡下股関節唇再建術も行っています。
  • 後療法(リハビリ)
    FAIによる股関節唇損傷に対して行った股関節鏡手術では、術後リハビリ加療がとても大事です。股関節唇損傷により手術加療を行う患者さんは、骨盤・腰部・胸郭周囲などの筋肉が硬く、それに伴い骨盤の可動性が低下していることが多いです。手術加療で行っているのは関節内の損傷に対してのみであり、手術後に骨盤可動性を改善するような体幹訓練、コンディショニングが術後の再発を起こさないためには非常に重要です。当科ではその点に重点を置いて、術後のリハビリを行っています。体幹訓練やコンディショニングは、術後経過の安定だけでなく、スポーツ選手においてはパフォーマンス改善にも有意義であると考えます。社会復帰の目安は術後1.5か月(松葉杖なし)程度、スポーツ復帰は約4-6か月を目安にしています。

    (文責 錦野匠一)