Speciality Guidance
2004年(平成16年)から、医師免許取得後の2年間の臨床研修が必修化されました。臨床研修における必修科目は、内科、外科および救急部門(麻酔科を含む)、小児科、産婦人科、精神科及び地域・保険医療となっていて、整形外科は含まれていません。しかし、厚生労働省が提示した臨床研修の到達目標の中には整形外科関連疾患が数多く含まれています。将来整形外科医を目指す研修医は、初期研修の2年間の中で選択研修ができるようになっていますが決して十分でないのが現状であり、後期研修においてしっかりとしたプログラムの下で研修することが必須であります。静岡県は整形外科医がまだまだ不足しており、各地域においてニーズに応えられる整形外科医を充足させるべく、静岡県に特化した卒後3年目以降の研修教育プログラムを作成しました。
整形外科診療の中でいくつかのサブスペシャリティーがあります。脊椎・関節・スポーツ疾患・手の外科・骨軟部腫瘍・関節リウマチ・外傷など多岐にわたります。整形外科研修の間にこれらの症例を経験し、次第に自分で治療を行うようになってきます。そのためには、整形外科全般について一定のレベルになるまでは(一般的には整形外科研修を始めて2~3年間)総合的な整形外科研修を行うのが一般的です。骨折・脱臼などの外傷に関しては、整形外科の基本と言えますからこの期間に積極的に症例を治療するようにして、外傷治療を習得してもらいます。整形外科全般について一定のレベルに達したと判断された場合には、整形外科の中の専門性(脊椎・肩関節・股関節・肘関節・手・関節リウマチ・膝関節・骨軟部腫瘍など)のある分野について、さらに深く研修するのがよいでしょう。この場合も、整形外科専門医になる前の段階ですので(整形外科研修を始めて4~5年目にあたります)ひとつの専門だけを研修するというのではなく、他の分野についても一定の研修は続けます。このように考えてくると、整形外科の研修を一つの病院で行うのは無理があると思われます。静岡県内において多くの指導者に接し、それぞれの指導者について、得意な分野を研修することでいろいろな分野についてエキスパートとなっていくわけです。本研修プログラムでは、いくつかの施設や指導者の下で効率よく研修ができるように、事務局が主体となって各研修医師の評価を行い、ニーズに合った研修ができるように作成されています。
浜松医科大学医学部附属病院整形外科 教授 松山 幸弘
本研修プログラムでは、初期臨床研修を終えた医師を対象としている。
①整形外科疾患に適切に対応できる基本的な知識と、診断・治療技術を習得し、5年間の整形外科研修の後に「整形外科専門医」取得する。
②明らかにされていない病態解明や新しい治療法・治療器具の開発に将来取り組むことのできる知識とアプローチ手法を学び、将来の医学・医療を牽引するような人材を育てる。
整形外科専門医取得について
日本整形外科学会認定整形外科専門医は、日本整形外科学会会員となり日本整形外科学会の認定施設で臨床研修6年完了後、受験資格が得られます。ただし、卒後初期研修期間2年間は日本整形外科学会に入会していなくても必要研修期間として申請することができます。したがって、初期研修終了後、後期研修プログラムに参加し、同時に日本整形外科学会に入会すれば、4年後以降には整形外科専門医の受験資格が得られます。本プログラムに参加している研修施設は日本整形外科学会の認定施設であり、専門医取得に必要な臨床症例教育、論文・学会研究発表の指導を行っています。
5年間の教育プログラムの中で、各プログラム参加者の研修に偏りがないように、大学を含めた3か所程度の研修参加施設をローテートしてもらいます。研修参加施設をローテートは評価委員会でプログラム参加者の中間評価、または年度末評価を行った上で、運営委員会にて決定します。
各施設の研修責任医師により、評価委員会で定められた評価基準に基づき評価を受ける。研修責任医師は評価した内容を評価委員会に報告する。
本専門医教育プログラム開始後4年を経過した時点で上記の評価をもとにプログラム修了の認定を行う。
新鮮創傷処置、骨折手術(一般的なもの)、各種手術のサポート
骨折手術(比較的複雑なもの)、関節手術(関節鏡視下手術を含む)、四肢切断術、神経・腱の手術、良性腫瘍手術、各種手術のサポート
骨折手術(比較的複雑なもの)、関節形成術(人工関節手術を含む)、脊椎手術(椎弓切除術)
骨折手術(複雑なもの)、筋腱靭帯手術、関節形成術(人工関節手術を含む)、脊椎手術(腰椎椎間板ヘルニア、前方固定)
骨折手術(複雑なもの)、四肢長調節手術、関節形成術(骨切り術を含む)、脊椎手術(後方固定術)
総合的な整形外科研修期間は整形外科研修開始から4年間が一般的です。この期間は整形外科病棟で入院患者を主治医として担当し、担当患者の手術については、助手として参加し、整形外科手術治療の流れをつかみます。整形外科の中で多くの分野がありますので、これらの分野を順に担当して、整形外科全般にわたって知識・考え方・治療プランなどを学んでいただきます。習熟の程度と手術の難易度によって、実際の術者として手術に参加してもらいます。指導は主に入院指示者である術者が行います。この最初の2~3年間に整形外科医の基礎が確立するように、一人でも多くの患者を受け持ち、1例でも多くの治療に参加するという態度で研修を行っていただけると、かなりレベルの高い一人前の整形外科医への道が開けます。 整形外科外傷については、指導医の元で診断・治療を一貫して行います。6ヶ月から1年間くらい病棟主治医を経験した後に、外来診療も行います。もちろんこの時点で外来患者の治療方針を決定できるとは思いませんが、経験しながら、勉強と指導によって外来診療をこなしていくことも診断能力を上げるために必要かと思います。 リハビリテーション医療のかなりの部分に整形外科治療が関係しています。リハビリテーションに関しても研修の希望がある場合には、調整できます。一時期リハビリテーション医療を行うことは、将来整形外科医として活躍するために役に立つことと思います。
研修開始前年度 | 1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 | |
4月 | 研修開始 | |||||
5月 | ||||||
6月 | ||||||
7月 | ||||||
8月 | 参加希望者募集 | |||||
9月 | 中間評価 | 中間評価 | 中間評価 | 中間評価 | 中間評価 | |
10月 | ||||||
11月 | ||||||
12月 | 参加希望者締切 | |||||
1月 | 参加者決定・通知 | 専門医試験 | ||||
2月 | 最終評価 | |||||
3月 | 年度末評価 | 年度末評価 | 年度末評価 | 年度末評価 | 修了書授与 |
後期研修終了後、引き続き各人の希望の元に、①大学院研究コース(医学博士号取得)、②サブスペシャリティー専門コース(脊椎外科、関節外科、スポーツ整形外科などの専門性の高い領域での研修)、③地域医療コース(関連病院、開業などで一般整形外科診療の継続)などが考えられます。
大学院で研究を行う場合は「何を研究したいか」が明確であることが必要です。実際に患者を診療していると「治せないこと」が多いことに驚きますが、これを一つ一つ解決していくには「臨床研究」と「基礎研究」が必要になります。日本の整形外科が世界的にもリーダーシップをとって行けるのはこの研究の両輪があるからです。この両輪のうちの「基礎研究」を良い環境で行えるのが「大学院」ということになります。大学院を卒業してからは、臨床医に戻る場合と、基礎研究を続ける場合があります。これは本人の興味の問題であると考えられます。
整形外科の中のサブスペシャリティーをもっと深く研修する人たちがいます。専門医を取得していますので多くの疾患の治療は一応行えるわけですが、実はそこが出発点です。関節外科、腫瘍、脊椎外科、手の外科などをここから研修・研究していくことによって、より高レベルの専門性を持つことができるようになります。この道に進んだ場合は後輩を指導する責務も負うことになります。
よくある外傷や疾患をきっちりと治療するためには専門医取得後も研修や研究を継続していく必要があります。地域の総合病院や救急病院あるいは地域の診療所で多くの患者さんが整形外科の治療を受けています。これらの患者さんをきっちりと治していくのが地域医療です。こちらに進んだ場合も、後輩の指導はもちろんしていかねばなりません。