University Hospital Introduction
産科婦人科では、2019年5月から良性疾患に対するロボット支援手術を導入しました。2021年2月から早期子宮体がんに対する子宮悪性腫瘍手術を開始し、2022年1月までに合計100例のロボット支援手術を施行しました。さらに、2022年1月から骨盤臓器脱に対する仙骨腟固定術を開始し、良性から悪性まで様々な婦人科疾患に対応できる環境が整っています。一般的な症例から難しい症例まで現在毎月8〜10件程度のロボット支援手術を施行しています。
先端医療センターに設置されたロボット支援手術専用の手術室
術者はサージョン・コンソールから手術ロボットを操作します。
現在当科では、Intuitive Surgical社の定める術者資格取得者4名(うち日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医2名)、助手資格取得者7名でロボット支援手術に取り組んでいます。また、子宮悪性腫瘍手術の際には、婦人科腫瘍専門医4名と連携し、根治性と安全性を両立した手術を心がけています。
婦人科手術で最も多いのが子宮全摘術です。子宮筋腫や子宮内膜症、子宮腺筋症により月経時の強い痛みや多量の月経血に悩まされる患者さんが子宮摘出の適応です。また、子宮頸部異形成や子宮内膜増殖症といった前がん病変も適応です。手術時間は平均2〜3時間程度で、出血が非常に少なく、ほとんどの患者さんが術後4日目に退院できます。本院ではロボット支援手術の導入前は、主に腹腔鏡手術で子宮摘出してきましたが、現在では7〜8割程度がロボット支援手術に置き換わっています。腹腔鏡にはないロボットアームの多関節機能や、高精細な3D視野と手振れ補正による確実な組織切開により、従来の腹腔鏡手術に比べて確実かつ精緻な手術が可能となりました。現在では、重量が1㎏程度の大きな子宮や、子宮周囲が強固に癒着した症例も積極的にロボット支援手術の対象としており、実績を重ねています。
ロボット支援子宮全摘術の術中所見。出血の少ないきれいな術野を保つことができます
早期子宮体がん(類内膜癌、グレード1または2、術前進行期1A期)の症例が対象となり、2021年は21例のロボット支援子宮悪性腫瘍手術を施行しました。手術時間は、子宮全摘術に加え骨盤リンパ節郭清術まで施行すると平均6時間程度で、出血は少なく、リンパ節郭清術をした患者さんも標準的な入院期間は6日間です。子宮全摘は子宮頸部を削ることなく確実に子宮を摘出する拡大術式を施行し、安全性と根治性を両立させた手術を心がけています。また、症例に応じて骨盤リンパ節郭清術を施行していますが、従来の腹腔鏡下手術と比較して、ロボットの多関節機能により開腹手術と同等の手術操作が可能です。術者はサージョン・コンソールに座って手術するため、長時間手術でも疲労が少なく、手術の質が向上します。また、子宮体がんの患者さんは疾患の特性から肥満症例が多くなり、開腹手術では骨盤の深いところの手術操作が困難になりますが、ロボット支援手術では高性能のカメラにより骨盤の深いところでも詳細に術野が確認できロボットによって細かい操作ができるため、BMI 50以上(例えば、身長160cmなら130Kg以上)でも質の高い手術をすることが可能です。
拡大子宮全摘、腟管切開前の様子
骨盤リンパ節郭清後の骨盤内
子宮や膀胱、直腸といった骨盤内臓器が腟内に下垂する、もしくは腟外へ脱出する骨盤臓器脱(子宮脱、膀胱瘤、直腸瘤)が手術の適応となります。ロボットを使用しない腹腔鏡下手術は多くの施設で行われていますが、2020年からロボット支援仙骨腟固定術が保険収載され、本院でも2022年1月より本術式を導入しました。この術式は、子宮体部を腟上部で切断した後に、腟から膀胱・直腸を剥離し、同部位吊り上げて仙骨に医療用メッシュで固定することで骨盤臓器脱を修復します。正確な膀胱・直腸剥離と確実なメッシュ・膣の縫合が必要であるため、骨盤臓器脱の治療においてロボット支援仙骨腟固定術を行っています。
腟と仙骨をメッシュで固定し吊り上げた様子
これらのロボット支援下手術に関しては、術式の利点とともに、いくつかの留意点等もありますので、診療についての詳細はかかりつけ医へご相談のうえ、当科へお問い合わせください。