Speciality Guidance
当科では、膵癌治療を最重要課題の一つと考え、
研究・臨床面でも特に力を注いでいます。
膵臓は、インスリンなどの血糖を調節するホルモンを分泌(内分泌)したり、膵液など食べ物を消化するための消化酵素を産生(外分泌)する働きをもった、胃の裏側にある15cm程の細長い臓器です。十二指腸側から頭部・体部・尾部と呼び、すべての部位で膵臓癌は発生しますが、頭部に発生する率がやや高くなっています。
膵臓に発生する腫瘍には、内分泌機能を持つ細胞から発生する膵神経内分泌腫瘍や、粘液産生性腫瘍など様々な種類がありますが、一般的には膵管という膵液を運搬する管に発生するものを(通常型)膵癌と呼びます。膵腫瘍の中では、通常型膵癌が最も頻度が高いです。発癌の機序としては、膵管の上皮細胞に何かしらの異常が起き(異形性・過形成)、これらの前がん病変からいくつかの遺伝子異常を経て、膵癌になっていくと言われています。胃カメラのように膵管を直接観察できれば、膵癌の早期発見も可能かも知れませんが、現状では進行した状態の浸潤性膵管癌という状態で発見されることが多くなっています。
膵臓の解剖
膵癌は、男女ともに近年増加傾向です。最新の全国統計では、罹患率では男性で9位(2.9人/1万人)、女性で7位(2.5人/1万人)、死亡率は男性で5位、女性で4位です(2016年国立がん研究センター がん対策情報センター)。罹患率に対する死亡率が非常に高いことが、この病気の深刻さを物語っています。原因として慢性膵炎、糖尿病、喫煙などの関連が示唆されています。また、遺伝性に発生することもあります。
膵臓は薄い皮膜に包まれていますが、すぐ後には門脈(腸からの栄養を肝臓に送る太い静脈)や腹腔動脈、上腸間膜動脈(内臓へ血液を送る重要な動脈)、神経などがあり、進行するとたやすくこれらの器官に浸潤(がん細胞が拡がること)します。また、前方には胃や大腸などが隣接しており、これらの臓器に浸潤を来すこともあります。膵癌の浸潤機序に関する研究は、我々の研究の主なテーマです。また、膵癌は他の臓器へ転移(がん細胞が違う場所へ移動すること)することもあります。転移の仕方は大きく3通りあり、①リンパ行性転移(リンパ流に乗って周りのリンパ節へ)、②血行性転移(血液に乗って肝臓や肺などの他の臓器へ)、③腹膜転移(腹腔内で直接飛び散って腹膜へ)があります。腫瘍の大きさが2cmを越えると浸潤の頻度も上がります。2016年7月より膵癌取り扱い規約が変更され、腫瘍の広がりと動脈への浸潤の有無でステージ分類(TMN分類)がされるようになりました。
膵臓癌のステージ
早期には無症状であることが多く、何となく上腹部に違和感がある、などといった不定愁訴が主です。進行すると体重減少や黄疸(皮膚や尿が黄色くなること:膵臓の頭部に癌がある場合、肝臓からの胆汁の通り道が狭くなるため)が出現したり、糖尿病が急に悪くなったり(膵液の流出が妨げられ、膵機能が低下するため)することで気付かれることがあります。さらに進行すると、腹水(腹腔内に水が溜まる)や血便などが見られることもあります。症状が出現する前に見つけることが重要なのですが、なかなか難しいのが現状です。
早期診断が困難であることは前述の通りですが、腹部超音波検査は侵襲も少なく、膵管の拡張(癌により途中の膵管が狭窄するため、その上流が拡張します)を発見するのに有効なことがありますので、膵癌を疑った場合には、最初に考慮されるべき検査と思われます。
肝胆道系酵素(ビリルビンやGOT・GPTなどの肝酵素、特に膵頭部の腫瘍の場合)の上昇を認めることがあり、これが発見の契機になることもあります。腫瘍マーカー(癌の目安となる値:CEA、CA19-9、DUPAN-2、SPAN-1)などが上昇することもありますが、早期では上昇しないこともありますので、正常値だからと言って癌を否定することは出来ません。
造影剤を用いた造影CT検査では、大きさが1cmくらいであれば十分に膵腫瘍を指摘することが可能です。ただ、5mm以下の膵癌は指摘困難なこともあります。膵臓癌は、造影CT検査で周囲より黒く見えることが特徴です。また周囲臓器への浸潤の有無などの情報を得ることも出来ます。当科では、高解像度CT画像から画像再構築ソフトを用い、膵癌と周囲の血管との位置関係を把握しています。
画像解析
CT検査の情報に加えて、さらに腫瘍の性質を知ることが出来ます。また、膵管の走行なども把握することが出来ます。
全身PET検査は、膵癌の他臓器転移の有無を診断するのに有用です。
CT検査などで膵癌が疑われた場合に、膵管に直接カテーテルを挿入し、膵管から癌細胞を採取することで確定診断を得ることが出来ます。
胃や十二指腸まで内視鏡を進め、膵臓により近い位置で超音波検査を施行する技術です。小さな病変を高感度に検出できることもあり、この超音波をガイドにして細い針を直接膵臓に刺し、細胞を採取する方法(EUS-FNAB)が膵癌診断の手助けになることがあります。
ERCPやEUSは専門的技術が必要で、当院では内科の内視鏡専門医により行われ、より正確・安全な検査を目指しています。当院では外科・内科・放射線科などが一丸となり、膵癌治療に取り組んでいます。
現在、膵癌を根治できる唯一の手段です。膵臓の頭部に癌が出来た場合と、体部・尾部に出来た場合とでは手術方法が異なります。頭部に出来た膵臓癌は膵頭十二指腸切除術(膵臓の頭側1/3、十二指腸、胆管の一部、リンパ節を切除)が、尾部に出来た場合は膵体尾部切除術(膵臓の尾側2/3、脾臓、リンパ節を切除)が行われます。また近年、膵癌に対する腹腔鏡下手術が保険収載され、当院でも腹腔鏡下膵体尾部切除術を施行しています。膵癌が発見されて手術治療を選択される割合は、30%程度というのが現状で、前述のステージ分類でStage IIまでの癌が対象となります。ただ、化学療法の進歩に伴い、現在積極的にStage IIIの膵癌に対して、手術前に化学療法を行うことで根治切除術が出来る可能性が出てきています。
手術前の化学療法の有効性の検討は、現在進行中の検討課題です。近年ジェムザール(GEM)とナブパクリタキセル(nabPTX)を組み合わせる化学療法の効果が認められ、副作用もそこまで強くないため、今後期待される薬剤です。また、手術が行われたあとに抗癌剤の内服治療が再発予防に有効であるという本邦発の結果が先頃報告され、当院でも手術後にS1という抗癌剤の内服を積極的に行っています。また、手術が出来ない場合でも前述のGEM+nabPTX治療に加え、FOLFIRINOX療法という多剤を組み合わせた治療法の有効性が報告され、積極的に行っています。
抗癌剤治療と組み合わせる方法で、特に局所における膵癌伸展に対して効果があるとされています。
以上、簡単に説明致しましたが、膵癌には様々な病態があり、それぞれに対する治療法は異なります。また、当科では膵臓に発生するすべての腫瘍に対して診療を行っています。ご不明な点などがあれば、お気軽にお問い合わせ下さい。
浜松医科大学 肝胆膵外科