Speciality Guidance
胃癌や大腸癌の手術は、従来、おなかに大きな傷の残る手術でした。現在、このような病気の中で比較的早期のものは、腹腔鏡手術で治療する施設が増えてきております。
みなさまは、腹腔鏡手術をご存知でしょうか?腹腔鏡手術は、5mm~12mmの穴をおなかに3~5か所ほど開けて行う手術で、その傷の小ささから、術後の痛みや、それに伴う合併症の減少が期待できる術式と言われています。
我々、浜松医科大学第一外科(一般・内視鏡外科)は、日本で腹腔鏡手術がまだ行なわれていなかった1990年に腹腔鏡下胆嚢摘出術をいち早く開始して以来、現在まで各種の疾患に対して積極的に内視鏡外科手術を実施し、患者さんのからだに負担の少ない手術を追及してきました。
第一外科は心臓血管外科、呼吸器外科、乳腺外科のある診療科群のため、心疾患を合併した患者さんなど、通常では難易度が高いと考えられる患者さんの紹介を受ける機会が多くあります。しかし、胸部外科から消化器外科までの幅広い知識と経験を生かし、多臓器に合併した難易度の高い手術にも臆することなく取り組んでいます。また、そのような患者さんにこそ、腹腔鏡手術の利点である、低侵襲(からだに負担が少ないこと)を生かせるものと確信しております。
患者さんのからだへの負担を少なくする取り組みとして、我々は以前より直径3mmの『細径鉗子』を使用し、5mmから3mmへと、さらなる傷の縮小に努めてまいりました(needle scopic surgery)。一部ではありますが、この鉗子を用いることで、術後の傷跡がほとんど目立ちません。
また、2009年からは単孔式内視鏡手術も積極的に行なっています。これは、おへそに2~3cmの1か所の傷をつけて腹腔鏡手術を行うものです。傷が少なく、また目立ちにくくなるため、患者さんの満足度に貢献できる術式と考えております。今までのノウハウの蓄積により、安全性を確保しつつ、現在も順次適応疾患を拡大しております。単孔式手術が困難な患者さんに対しては、最近、傷の数を従来の腹腔鏡手術よりもさらに減らした手術(reduced port surgery)を検討しています。
また、専門臓器にとらわれず、外科系の疾患全般にわたって標準的手術から難度の高い手術まで行っています。当科は外科における「総合診療科」のような位置付けを考えています。
上の写真は、気腹針を使用している場面です。これは先端が丸まった針で、この器具を用いることで、おなかをあまり切ることなく、文字通り針のような穴からお腹にガスを送り込み、腹腔鏡手術の準備をすることができます。
安全に、やさしい手術を行うことは、内視鏡外科医に課せられた課題であると考えています。
腹腔鏡手術は細い器械をおなかに挿入して行う手術です。人の手を入れ、臓器に触れながら行ってきた開腹手術とは、若干異なった技術を要する手術であることは容易に想像できるでしょう。
しかし、あたらしい技術を追求するあまり、患者さんに不利益を被らせてしまう事はあってはならない事です。
2011年から、胃のGISTなどに対し、腹腔鏡手術と内視鏡治療との共同で手術を行なうLECS(Laparoscopy and Endoscopy Cooperative Surgery)を開始しました。今までは、腫瘍の部位により、術後に胃の変形・狭窄を来たし、食事の通りを悪くしてしまう危険性がありました。LECSでは、最小限の切除範囲、最小限の胃の変形で手術を終えることができるようになります。
我々が目指すのは、『あたらしく、珍しい手術』なのではなく、『患者さんにやさしい手術』です。
技術におぼれることなく、患者さんのための医療を提供し続けます。
我々は治療に際し、必ずしも外科的治療のみを優先するのではなく、患者さんの状態と希望に沿った方法を選択していくことを基本としています。外科的治療を選択した場合は腹腔鏡手術を主体にできるだけ侵襲の少ない手術を行ないます。
また、緊急手術でも積極的に腹腔鏡手術を行なっています。入院治療に関しては、積極的にクリニカルパスを導入し、標準的で効率的な診療を目指しています。
院内外からのセカンドオピニオンをお受けしますし、ご希望があれば他院へのセカンドオピニオンも支援致します。