教育

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精神医学講座

教授 山末 英典

山末英典

 大学病院に勤務することに対して、臨床に加えて研究も教育も求められて負担が大きい、全てにモチベーションを高めるのは難しい、といった印象を持っている方もいるのではないかと思います。しかし、大学で求められる臨床・研究・教育は、決して別々のものではありません。臨床は、現在の医学的知見を最大限に活用して患者さんやご家族の問題の解決を図ることを目的としています。一方で研究は、現在の医学的知見では満たされない患者さんやご家族の問題(Unmet medical needs)をリサーチクエスチョンとして計画し、将来的な解決を図ることを目的としています。そして、こうして臨床や研究を行うためには、最新の医学的知見を調べて活用する姿勢と能力が不可欠です。また、解決出来ない問題も含めて患者さんやご家族の訴えを共感的に傾聴する姿勢と能力も不可欠です。出来ないことを繰り返し求めてくる切実な訴え、過剰に感じられる要求や応えられなくて耳を塞ぎたくなる要求の中にこそ、新規性や医学的必要性の高い研究テーマがあります。そして、これらの必要不可欠な姿勢と能力を身につけられるように指導するのが、教育だと考えられます。つまり、臨床も研究も教育も、医学や医療の場では、患者さんやご家族の問題の解決を最大限に図るということを唯一つの最終目的としています。

 精神医学の領域には多くのUnmet medical needsが残されています。例えば自閉スペクトラム症(Autism spectrum disorder: ASD)の中核症状である社会性やコミュニケーションの障害は、全世界で100人に1人を超える頻度で認められますが、有効な治療薬は開発されていません。そのため、3歳以前に出現して一生涯続くこの障害のために、例えば米国では毎年年間1260億ドルの負担が生じていると試算されています。私は、医学部を卒業して研修を終えた後は、一貫して常勤で診療を続けながら臨床研究を行うClinician scientistであり続けてきた立場から、これまでの研究・臨床の成果や経験を統合させて、精神医学領域のUnmet medical needsの解消を直接的に実現する研究成果を目指し続ける覚悟でいます。そして当講座内には、様々な訓練を受けた医師や心理士や研究者が集まっていますが、職種や経験や立場は違っても、この同じ覚悟を共有して仕事をしています。端的には、現在は「治せない」症状を「治せる」症状にする「分からない」病気を「分かる」病気にすることに、直接的に貢献する研究成果、研究者のみならず疾患に患わされる当事者やそのご家族からこそ、真に評価され歓迎される研究成果を志向し続けます。言葉にすると当たり前の様ですが、実際には当事者のニーズを満たすことと、研究者間の評価を得ることや学問的関心を満たすことが、離れてしまっていることも多いと思います。そして現在の精神医学領域の研究をとりまく体制は、研究者からの評価は求められますが、当事者からの評価を受ける機会は少ないものになっています。浜松医科大学精神医学講座では、静岡県内と愛知県東部の豊富な関連施設と連携して、患者さんやご家族の問題の解決を最大限に図るという目的を共有し、質の高い臨床・研究・教育を行っていくことで、精神医学領域のUnmet medical needsの解消に貢献できる様に精進しています。職種を問わず、同じ目的を共有して下さる方の参入を講座をあげて歓迎します。