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自閉スペクトラム症(ASD)は、100人に1人の頻度で認められる代表的な発達障害です。ASDでは、社会的コミュニケーションの障害などの中核症状の治療法が未確立で、巨大な Unmet medical needs として、当事者や家族さらには社会全体にも大きな負担となっています。さらに、客観的診断技術の欠如や、発症メカニズムが未解明であるなどの課題も残されています。
当講座主任は、ASDの中核症状に対する初の治療薬を開発するため、既存のオキシトシン経鼻剤の自主臨床試験を複数行ない、中核症状やその脳画像バイオマーカーに対する有効性と安全性を示す結果を繰り返し報告し、世界屈指の研究成果を挙げてきました (JAMA Psychiatry 2014; BRAIN 2014; 2015; 2019; Mol Psychiatry 2015; 2020; 2021)。これらの自主臨床試験から抽出したいくつかの課題を解決し、世界初のASD中核症状治療薬を開発するために、さらに多施設の医師主導治験を実施し、令和2年度にこれを完了させました。現在は、この成果発表および今後の開発についての準備を進めています。
当講座ではMRIやPETを用いた画像研究が盛んに行われています。MRI研究では、物質誘発性の精神病症状のMRS研究(Neuropsychopharmacology 2002; 2004)、自閉スペクトラム症当事者のfMRIやMRS研究(Neuroreport 2003; Int J Neuropsychopharmacol 2010)、統合失調症患者のMRI研究(Ann Gen Psychiatry 2008)を報告しています。さらにPET研究では世界屈指の成果を挙げています。覚せい剤誘発性の精神病症状におけるドパミントランスポーターやセロトニントランスポーターの低下(Am J Psychiatry 2001, 2003, Arch Gen Psychiatry 2006)、自閉スペクトラム症当事者でのドパミントランスポーターの上昇とセロトニントランスポーターの低下、アセチルコリンエステラーゼの低下、活性化ミクログリアの上昇(Arch Gen Psychiatry 2010, 2011, JAMA Psychiatry 2013)、注意欠如多動症当事者でのドパミンD1受容体の低下と活性化ミクログリアの上昇(Mol Psychiatry 2020)、アルツハイマー病患者での活性化ミクログリアの上昇やα7ニコチン性アセチルコリン受容体の低下 (Eur J Nucl Med Imaging 2011, J Cereb Blood Flow Metab 2016, J Alzheimers Dis 2018)、神経性やせ症患者でのセロトニントランスポーターの低下(Neuroimage Clin 2019)を報告しています。また、平成28年6月から講座主任に着任した山末英典教授はPTSD(PNAS 2003; Ann Neurology 2007; Biol Psychiatry 2008)、統合失調症(NeuroImage 2004; Schizophrenia Bulletin 2013)、自閉スペクトラム症(Biol Psychiatry 2010; JAMA Psychiatry 2014; BRAIN 2014; Mol Psychiatry 2015; BRAIN 2015)などの研究で、MRI, fMRI, MRSを用いて世界屈指の研究成果を挙げてきた実績を持ち、本学赴任後も自閉スペクトラム症でのオキシトシン反復投与による脳内グルタミン酸濃度の低下(Mol Psychiatry 2021)などの成果を上げています。そのため、今後はPETやMRIを用いた画像研究にこれまで以上に力を入れて、世界の医学の発展に貢献出来る研究計画を進めていく方針です。
当科では主に森田療法、認知行動療法、眼球運動による脱感作と再処理療法(EMDR)などの研究に取り組んでいます。最近では、EMDRが脳機能に及ぼす影響を検証する研究や自閉スペクトラム症に対して、反芻思考に焦点を当てた認知行動療法の効果を検証する研究、摂食障害に対する心理療法の効果を検証する研究、周産期における虐待予防に関する研究など、様々な臨床研究を行っております。研究の成果を臨床実践に還元し、よりよい治療を提供できるよう、取り組みを継続していきたいと考えています。