国際的ながん専門学術誌「 Neoplasia(ネオプラジア) 」に研究成果が公表されました
2025年05月30日
見えざる希少癌、空腸・回腸癌の免疫組織化学的および分子進化学的特徴の解明
〜大腸癌との比較解析を通じて〜
本学腫瘍病理学講座の石川励医師(大学院生)、新村和也教授、および同医化学講座の才津浩智教授を中心とした研究グループは、空腸・回腸癌に特徴的なタンパク質発現や遺伝子変異、がんの進化プロセスを明らかにしました。
本研究では、まず多施設共同で空腸・回腸癌52症例(55腫瘍)を収集し、対照群として大腸癌182症例(192腫瘍)を加え、計32種類の抗体を用いた免疫組織化学的解析を実施しました。その結果、14種類のタンパク質の発現パターンが両者で異なることが明らかとなりました。特に、SALL4やGlypican 3の高発現を特徴とする"免疫組織化学的に胎児期消化管に類似した腫瘍"が、空腸・回腸癌において初めて同定されました。さらに、ミスマッチ修復*1機能が保たれている(pMMR)空腸・回腸癌8症例を対象に全エクソーム解析*2を行った結果、TP53およびARID2が主要なドライバー遺伝子*3であることが判明しました。加えて、遺伝子変異の進化系統樹*4の形態や、変異アレル頻度(VAF)*5の分布から明らかになった分子進化プロセスが、大腸癌とは本質的に異なることも初めて示されました。これらの発見は、空腸・回腸癌が大腸癌とは根本的に異なる生物学的特性(分子病態および進化様式)を有していることを示しており、診断精度の向上や個別化治療の実現に向けて重要な知見であると評価されます。
本成果は、エルゼビア社が刊行する国際的ながん専門学術誌「Neoplasia(ネオプラジア)」の公式ウェブサイトにて、2025年5月22日付で早期公開されました。
*1 ミスマッチ修復:DNA複製中に起こるエラーを修正する仕組み。MLH1、PMS2、MSH2、MSH6が特に重要な遺伝子として知られている。
*2 全エクソーム解析:次世代シークエンサーを用いて、ヒト全遺伝子の中で翻訳領域を中心としたエクソン(coding exonおよび一部のnon-coding exon)の塩基配列を網羅的に解析する手法。
*3 ドライバー遺伝子変異:がん細胞の発生や増殖、進行に直接関与する遺伝子変異。
*4 (遺伝子変異の)進化系統樹:がんの複数箇所を解析することで、がんが経時的に獲得する遺伝子変異の蓄積を可視化した図。
*5 変異アレル頻度(VAF):ある遺伝子座(染色体上の遺伝子の位置)における変異アレルの割合。ヒトは1対の対立遺伝子をもつため、片方の対立遺伝子のみに変異がある場合、理論的にはVAF=0.5になる。
論文情報
論文タイトル: |
Immunohistochemical and molecular evolutionary features of jejunoileal adenocarcinoma unveiled through comparative analysis with colorectal adenocarcinoma |
DOI: | 10.1016/j.neo.2025.101180 |
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