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羊水塞栓症登録事業

1.羊水塞栓症とは

2.羊水塞栓症の歴史

3.羊水塞栓症の特徴

4.検体送付方法

5.検査実施項目

6.業績

※羊水塞栓症の血清学的診断法(補助)は平成15年に日本産婦人科医会血清事業となりました

1.羊水塞栓症とは

羊水塞栓症は、羊水が母体血中へ流入することによって引き起こされる「肺毛細管の閉塞を原因とする肺高血圧症と、それによる呼吸循環障害」を病態とする疾患として定義されました。

2.羊水塞栓症の歴史

  • 1926年 Meyer
    分娩時急性母体死亡を呈した症例の肺の剖検例により胎児由来細胞を発見(Spanish)  
  • 1941年 Steiner&  Luschbauch
    分娩時に急性ショックと肺水腫を示した8症例の肺の剖検より、肺血管内に胎児成分とみなされる扁平上皮細胞とムチンを見出し、これを羊水塞栓症として報告(English)


羊水塞栓症は、1926年Meyerにより初めて紹介された産科合併症です。しかし、全世界への登場はその15年後、1941年SteinerとLuschbaughにより報告された分娩中に急死した妊婦の剖検組織所見によります。 彼らの症例は、分娩中に急性ショックと肺水腫を併発した8人の妊婦の病理解剖において、 全ての症例の肺血管内部に胎児由来と思われる扁平上皮細胞やムチンを認めました。1969年Liban とRazにより羊水塞栓症剖検例において、 肺以外の全身臓器(腎・肝・脾・膵・脳)にも同様に、扁平上皮が見いだされました。 これらより、妊娠中の母体の突然死としての羊水塞栓症は、 羊水及び胎便などの胎児成分が母体血中に流入して起こるものであると考えられました。また、その発症時期は、分娩中に最も多いが、時に妊娠中期の早産症例、治療的生理的食塩水子宮内注入時、帝王切開時、分娩数時間後にも認められています。

3.羊水塞栓症の特徴

  1. 母体死亡率=61%;
      neurological intact survival ; 15%
     新生児死亡率=21%;
      neurological intact survival ; 39% Clark;1995
  2. 羊水塞栓症発症時期;分娩中:経膣分娩:帝王切開後=70:11:19  Clark;1995
  3. 羊水塞栓症の45%に胎盤早期剥離、前置胎盤症例を認めた Peterson;1970
  4. 羊水塞栓症の54~60%の症例に頸管裂傷を認めた Smibert J;1967,Liban E;1969
  5. アナフィラキシーショックの臨床症状に類似している Steirer;1941,Benson;1993,Clark;1995
  6. アレルギー及びアトピーの既往がある人に多い(41%)  Clark;1995
  7. 男児妊娠例に多い(67%)  Clark;1995
  8. 羊水塞栓症発症時における破水の有無 自然破水または人口破膜後:88%,未破膜:12% Clark;1995

4.検体送付方法

登録用紙・同意書と一緒に血清、血漿をクール宅急便(冷蔵もしくは凍結)にてお送り下さい。
検査には必ず登録用紙と同意書が必要になりますので、お手数ですがこちらからダウンロードしてお使い下さい。

登録用紙

同意書
 ※ダウンロードできない場合はお電話下さい。FAXにてご案内させていただきます。

検体量 血清にて2ml以上必要です。
血漿もございましたら併せてご送付下さい(病態解明のため)。
保存方法 採血後、できる限り早期に血清採血管をアルミ箔にて遮光してください。遠心分離をし、分離血清を遮光後、-20℃に保存してください(-20℃が不可能であれば通常の冷凍庫でも可)。血漿は遮光の必要はありませんが、遠心分離後同様に凍結保存してください。
検体スピッツ
(採血管)
貴院で、腎機能、肝機能を測定するときに用いている生化学スピッツ、凝固スピッツ(クエン酸血漿)にてお願いします。
送付方法 クール宅急便(冷凍)にてお願いします。但し、土・日・祝日の場合、到着した時、医局に人がいない場合がありますので、必ず平日に到着するようお願いいたします。

 宛先:〒431-3192 浜松市中央区半田山1丁目20番1号
    浜松医科大学産婦人科 羊水塞栓症班宛
    電話:053-435-2309
結果 結果が判明するまでに1か月程度かかります。結果はFAXにてお知らせします。
その他

・検体と同意書・登録用紙を一緒にお送りください

・1症例につき複数検体をお送り頂く場合は、採血時間等判別できる情報をご記入願います

・検査料は無料ですが、送料のみご負担下さりますようお願いいたします。

5.検査実施項目

1)Sialyl Tn (STN)
2)Zinc-coproporphyrin1(Zn-CP1)
3)C3
4)C4
5)C1インアクチベータ活性

 その他に病因・病態解明に資する追加検査を行う場合があります。

※浜松医科大学倫理委員会において承認されています
※羊水塞栓症の血清学的診断法(補助)は平成15年に日本産婦人科医会血清事業となりました

我々は、羊水・胎便中に多量に存在する2つの物質(亜鉛コプロポルフィリン:Zn-CP1およびムチン:STN)に着目し、これら物質が血清学的診断に応用できないかを検討してきました。Zinc coproporphyrin1(Zn-CP1)は、胎便由来のポルフィリンで、胎便中に非常に多くまた羊水中にも存在します。この物質は、405nmの励起光に対し580nmの大きなピークと630nmの小さなピークの蛍光を発します。そして、この580nmの波長は可視光の長波長であり、短波長の干渉が少ないため識別が容易であるという特徴を有しています。よって、高速液体クロマトグラフィー(HPLC法)を用いて測定可能です。Sialyl Tn (STN)は、羊顎下腺ムチンをマウスに免疫したモノクローナル 抗体TKH-2により認識される、ムチンO糖鎖抗原の母核構造に存在する糖鎖です。 本症の発症原因は、胎便や羊水などの胎児成分の流入により起こる疾患と考えられています。そのため、胎便や羊水中に多量に含まれているこれら物質が、子宮から母体血中に外因性に流入した場合、母体血清中の亜鉛コプロポルフィリンおよびムチン濃度が上昇を示し、間接的に胎児成分の母体血中流入が起こったことを証明できると考えました。この考えを基に、羊水塞栓症の血清学的補助診断法として、1992年に Zn-CP1の測定が有用であることを、1993年に血清中の STNが有用であることを報告しました。Zn-CP1は、当院においてHPLCを用いて測定しています。しかし、光により分解されるため、搬送および測定前保存時はアルミ箔による遮光が必要です。また、HPLC器機は、検体が溶血血清であるとカラムの目詰まりが高頻度となるため、 検体採取後は出きる限り早期の血清分離を推奨しこれに対処しています。それぞれの物質の母体血中における正常閾値は、正常妊婦の陣痛発来から分娩直後において採血した血清より、STNは45 U/ml,Zn-CP1 は1.6 pmol/mlと設定しています(2014現在)。

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6.業績

1: Oi H, Kobayashi H, Hirashima Y, Yamazaki T, Kobayashi T, Terao T. Serological and immunohistochemical diagnosis of amniotic fluid embolism. Semin Thromb Hemost. 1998;24(5):479-84.

2: Benson MD, Kobayashi H, Silver RK, Oi H, Greenberger PA, Terao T. Immunologic studies in presumed amniotic fluid embolism. Obstet Gynecol. 2001 Apr;97(4):510-4.

3: Oi H, Naruse K, Noguchi T, Sado T, Kimura S, Kanayama N, Terao T, Kobayashi H. Fatal factors of clinical manifestations and laboratory testing in patients with amniotic fluid embolism. Gynecol Obstet Invest. 2010;70(2):138-44.

4: Kanayama N, Inori J, Ishibashi-Ueda H, Takeuchi M, Nakayama M, Kimura S, Matsuda Y, Yoshimatsu J, Ikeda T. Maternal death analysis from the Japanese autopsy registry for recent 16 years: significance of amniotic fluid embolism. J Obstet Gynaecol Res. 2011 Jan;37(1):58-63.

5: Kato M, Itoh H, Nagahashi K, Izima M, Yaguchi C, Uchida T, Suzuki K, Sugihara K, Kanayama N. Reduction in maternal complement levels during delivery by cesarean section. J Obstet Gynaecol Res. 2012 Jan;38(1):165-71.

6: Hikiji W, Tamura N, Shigeta A, Kanayama N, Fukunaga T. Fatal amniotic fluid embolism with typical pathohistological, histochemical and clinical features. Forensic Sci Int. 2013 Mar 10;226(1-3):e16-9.

7: Oi H, Naruse K, Koike N, Tsunemi T, Shigetomi H, Kanayama N, Kobayashi H. Predictor of mortality in patients with amniotic fluid embolism. J Obstet Gynaecol Res. 2014 Apr;40(4):941-5.

8: Masuzaki H, Unno N, Kanayama N, Ikeda T, Minakami H, Murakoshi T, Nakata M, Ishiwata I, Itoh H, Yoshida A. Annual report of Subcommittee for Examination of Causes of Maternal Death and their Prevention in Perinatology Committee, Japan Society of Obstetrics and Gynecology, 2013.J Obstet Gynaecol Res. 2014 Feb;40(2):336-7.

9: Tamura N, Kimura S, Farhana M, Uchida T, Suzuki K, Sugihara K, Itoh H, Ikeda T, Kanayama N. C1 esterase inhibitor activity in amniotic fluid embolism. Crit Care Med. 2014 Jun;42(6):1392-6.

10: Kanayama N, Tamura N. Amniotic fluid embolism: pathophysiology and new strategies for management. J Obstet Gynaecol Res. 2014 Jun;40(6):1507-17.

11: Tamura N, Nagai H, Maeda H, Kuroda RH, Nakajima M, Igarashi A, Kanayama N, Yoshida K. Amniotic fluid embolism induces uterine anaphylaxis and atony following cervical laceration. Gynecol Obstet Invest. 2014;78(1):65-8.

12: Farhana M, Tamura N, Mukai M, Ikuma K, Koumura Y, Furuta N, Yaguchi C, Uchida T, Suzuki K, Sugihara K, Itoh H, Kanayama N. Histological characteristics of the myometrium in the postpartum hemorrhage of unknown etiology: a possible involvement of local immune reactions. J Reprod Immunol. 2015 Aug;110:74-80.

13: Todo Y, Tamura N, Itoh H, Ikeda T, Kanayama N. Therapeutic application of C1 esterase inhibitor concentrate for clinical amniotic fluid embolism: a case report. Clin Case Rep. 2015 Jul;3(7):673-5.

14: Tanaka H, Katsuragi S, Osato K, Hasegawa J, Nakata M, Murakoshi T, Yoshimatsu J, Sekizawa A, Kanayama N, Ishiwata I, Ikeda T. The increase in the rate of maternal deaths related to cardiovascular disease in Japan from 1991-1992 to 2010-2012. J Cardiol. 2016 Feb 15. pii: S0914-5087(16)00016-2.

15: Hasegawa J, Sekizawa A, Tanaka H, Katsuragi S, Osato K, Murakoshi T, Nakata M, Nakamura M, Yoshimatsu J, Sadahiro T, Kanayama N, Ishiwata I, Kinoshita K, Ikeda T; Maternal Death Exploratory Committee in Japan; Japan Association of Obstetricians and Gynecologists. Current status of pregnancy-related maternal mortality in Japan: a report from the Maternal Death Exploratory Committee in Japan. BMJ Open. 2016 Mar 21;6(3):e010304.

お問い合わせ

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羊水塞栓症班
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TEL:053-435-2309