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英国胸部疾患学会誌「Thorax」に研究成果が公表されました

2025年10月20日

間質性肺炎を合併した肺癌にも免疫療法の恩恵

 

 本学医学部附属病院腫瘍センター 柄山正人講師、第二内科 宮下晃一診療助教らの研究グループは、厚生労働省の匿名医療保険等関連情報データベースを用いたリアルワールドデータ研究*1を行い、間質性肺炎(ILD)を合併した非小細胞肺癌(NSCLC)の患者情報を抽出し、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の治療を受けた患者(ICI群)と、細胞障害性抗がん剤のみの治療を受けた患者(抗がん剤群)の全生存期間と薬剤性肺障害の発症率を比較しました。
 1748例のICI群と6362例の抗がん剤群で行ったランドマーク解析*2では、3・6・9・12ヶ月のいずれのランドマーク時点でも、ICIは抗がん剤と比較して有意に全生存期間が良好でした。ICI群は抗がん剤群と比較して高い薬剤性肺障害の発症率を示しましたが、薬剤性肺障害の発症例は、非発症と比較して同等の全生存期間を示しました。
 続いて、初回治療としてICI治療を行った753例(初回ICI群)と、傾向スコアマッチ法*3で背景因子をマッチさせた抗がん剤753例を比較したところ、初回ICI群は、マッチさせた抗がん剤群と比較して有意に全生存期間が良好でした。サブグループ解析では、患者背景にかかわらず、ICI群が抗がん剤群に比較して全生存期間を延長することが示されました。
 本邦の大規模な実臨床データを用いた本研究の成果から、臨床試験ではICIの治療対象となってこなかったILD合併のNSCLCであっても、ICI治療が生存期間の延長に寄与することが期待されます。


*1 リアルワールドデータ研究:実臨床で得られる情報を収集・解析する研究。臨床試験を行うことができない希少疾患や、臨床試験の対象とならない患者に関して、実臨床に即したエビデンスを創出する手法として注目されている。
*2 ランドマーク解析:生存時間分析において、特定の時点(=ランドマーク)まで生存している患者のみを対象に解析を行う手法。観察研究において、生存時間バイアスという解析結果に誤った影響を与える因子を除外し、より正確な解析結果を得る手法。
*3 傾向スコアマッチ法:観察研究における交絡因子(=結果に影響を与えうる別の要因)の影響を調整し、治療効果をより正確に推定するための統計的手法。

論文情報

論文タイトル:

Survival benefit of immune checkpoint inhibitors for non-small cell lung cancer patients
with interstitial lung diseases: a nationwide population-based study
DOI: 10.1136/thorax-2025-223430

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