大学紹介

University Introduction

研究活動

本分野では3つプロジェクトを進めている。

1. FLASH放射線療法における脂質の細胞・臓器レベルでの役割解明と新規脂質ペプチド治療法の開発(日本医療研究開発機構 先端国際共同研究推進プログラム(ASPIRE)瀬藤光利教授との共同研究)

主要ながん治療法である放射線治療は、精度の向上と健常組織へのダメージの最小化を目指し、大きな進歩を遂げてきた。超高線量率を照射するFLASH放射線治療は、腫瘍の制御を維持しながら正常組織の損傷を軽減するユニークな 「FLASH効果」を示すが、そのメカニズムはまだ十分に解明されていない。最近の研究では、脂質代謝がこの効果に重要な役割を果たしている可能性が示唆されている。さらに、脂質を介した翻訳後修飾(LPTM)は、放射線を含むストレスに対する細胞応答の重要な制御因子として浮上してきた。このプロジェクトは、従来の放射線治療(CONV)とFLASH放射線治療の両方における脂質の変化とLPTMの役割を探求し、治療成績を向上させることを目的としている。

2. X線直接励起型光線力学作用を利用した難治性脳腫瘍治療法の開発

放射線治療はがんの三大療法の一つであるが、神経膠芽腫などのように十分な効果が得られないがん種も存在する。この問題に対し、酸素効果を高める薬剤など様々な放射線増感剤の開発が進められてきたが、未だ標準治療として確立されたものはない。一方で、光線力学療法や光免疫療法などの光増感療法は臨床応用されているが、深部のがんには光を届けられず適用が限定的となっている。そこで、透過性の高いX線により直接光増感剤を励起する手法を考え、これまでのスクリーニング研究によりX線直接励起型光増感剤の候補化合物として、すでにDrug Xを同定している。Drug Xを用いたX線直接励起型光線力学作用により難治性脳腫瘍の治療法を開発する。本研究は、日本が世界をリードする光増感技術を放射線直接励起型として応用する革新的なアプローチであり、この独創的な戦略によって難治性脳腫瘍を治療することを目指す。

3. 難治性不整脈に対するファイバー型レーザー加速放射線治療の開発研究

不整脈治療において、カテーテルアブレーションは標準治療として確立されているものの、心室頻拍(VT)などの難治性不整脈に関しては再発率が約50%と高く課題が残っている。近年、放射線を用いた不整脈治療として心筋ラジオアブレーション(CRA)が注目を集めており、VTに対する治療成績は従来治療を大きく上回ることが示されている。しかし、現在のCRAは放射線を外から照射する方法のため、周辺の正常組織への照射が避けられず、放射線肺臓炎や二次発がんのリスクが懸念される。これらの課題に対し、カテーテル先端からの局所的な放射線照射を可能とする、ファイバー型レーザー加速技術を提案する。本治療法は、電子線のエネルギーによって組織内到達距離を制御でき、周辺組織への障害を最小限に抑えることが可能である。また、循環器内科医が既存のカテーテルアブレーションと同じように治療を実施できることから、臨床現場への導入が見込める。
本研究では、不整脈治療用カテーテルにレーザー加速放射線照射機能を統合し、血管内アプローチによる精密なCRAを実現する革新的医療機器の開発を目的とする。これにより、難治性不整脈に対する効果的かつ安全な新規治療法の確立を目指す。本研究では、レーザープラズマ加速という革新的な放射線発生技術を活用し、カテーテル先端での局所的な放射線照射の実現を目指す。従来の体外照射のための高周波加速器では数十cmの加速距離が必要であったが、レーザープラズマ加速により数cmまで大幅な短縮が可能となった。本研究で確立する要素技術は特許性が高く、正常組織への影響を最小限に抑えつつ、既存の手技を活用した革新的な不整脈治療の実現が期待される。