教育

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法学

教授 大磯 義一郎

1999年以降、医療現場への司法介入は加速度的に進みました。民事医事関係訴訟新受件数は、5年でほぼ倍となり、医療従事者にとって訴訟は身近な問題となりました。特筆すべきは、世界に類をみないほど刑事司法が医療現場に介入したことです。その結果、萎縮医療が急速に進み、わが国の医療は崩壊の危機に瀕しました。
しかしながら、医療現場への司法の介入は、マイナスばかりではありません。事実、この10年の司法介入により、インフォームド・コンセントは当然のこととされるようになりましたし、カルテ開示もほとんどの病院において自主的になされるようになりました。「医療をよくしたい」という目的は共通しているのです。ただ、相互理解や対話を欠いたまま、介入したことが問題であったのです。
医療と司法が手を取り合って、国民にとってよりよい医療法制度が構築できればなによりと考えています。 理論的、学術的視点から本問題を捉え直すと、これまで、医療行政の根拠となっている医療関連法規の制定、改正において、法専門家が殆ど関与してこなかったことが指摘できます。そのため、医療行政においては、法律による統制ではなく、行政の通知・通達による統制が行われており、また、それを学術的に体系化し、検討する専門家も殆どいませんでした。
「医療法学」においては、医師法、医療法をはじめとする医療関連法規を中心として、民事責任、刑事責任、行政責任をもカバーし、これらすべての法規を一つのシステムとして一体的に捉え、医療現場にとって意味のある規範を形成していきます。