静岡リウマチネットワーク
 
 
関節リウマチはタバコでリスクが高くなる!?
内容  タバコは「ニコチン」、「一酸化炭素」、「タール」だけでなく、約200種類以上の有害物質が含まれており、さらにそのうち約50種類以上が発癌物質と言われています。喫煙関連病としては、 肺癌、喉頭癌、胃癌、膀胱癌などのほとんどの癌、肺気腫、心筋梗塞、脳卒中、大動脈瘤、閉塞性動脈硬化症、胃潰瘍、歯槽膿漏などの増加が医学的(科学的)、疫学的(人での大規模調査)に証明されています。

 近年、関節リウマチも喫煙関連疾患であると報告されています。喫煙者ではリウマチ発症リスクが高くなることが報告されています。 最近の研究では、特定の遺伝子をもつグループの人たちは、喫煙により免疫の異常が誘発され、リウマチをより高頻度に発症することもわかってきました。 また、リウマチ発症後も喫煙者では、リウマチ因子高値やリウマチ結節の増加、発症後長期間喫煙を続けると、より関節の破壊が進行することが報告されており、リウマチの発症、悪化に関与するとされています。
 また、喫煙者は肺気腫という病気が高齢になるにしたがって高率に生じてきます。リウマチ患者さんは、肺線維症や慢性気管支炎を合併されていることも多く、 喫煙による肺気腫とこれらの病気が混在している高齢の患者さんは、息切れ、低酸素血症から酸素療法が必要となる場合もあります。このような患者さんは、肺の感染症に罹った時は予備能がないので非常に危険で、生死にかかわる状態になってしまいます。

男性は過去の喫煙でも関節リウマチになりやすい?
 フィンランド社会保険研究所の報告は、5万2809人×6年間の追跡調査から、男性の関節リウマチが過去の喫煙によって2.6倍、現在の喫煙によって3.8倍になることを示しています。
(Smoking and risk of rheumatoid arthritis. Heliövaara et.al. Finland. J Rheumatol. 1993 Nov;20(11):1830-5.)

1日に25本以上の喫煙をしていると、関節リウマチになりやすい?
 米国ハーバード医科大学のKarlssonらは、女性37万7481人を3年間、追跡調査しました。この結果、喫煙の量と関節リウマチの危険が関連していることが分かりました。特に、1日25本以上の喫煙をしている場合には、非喫煙に比べて関節リウマチの発症リスクが1.39倍になると述べています。
(A retrospective cohort study of cigarette smoking and risk of rheumatoid arthritis in female health professionals. Karlson EW et al. Arthritis Rheum. 1999 May; 42(5):910-7.)

喫煙をしていると、抗CCP抗体が上昇する?
 Klareskog Lらは疾患に関連する特定の遺伝子を持つ方が、喫煙することによって抗CCP抗体が上昇するかどうかを検証しました。気管支鏡で肺を洗いその洗浄液を採取し、その中に含まれている細胞に特殊な色を付けて観察し、喫煙により肺で反応が起こっているかどうかを調査しました。
 以前に喫煙していたリウマチ患者さんは、その喫煙量に応じて抗CCP抗体が発生しやすいこと、関節リウマチを発症しやすいこと、喫煙により肺で免疫反応が起こっている可能性があることが分かりました。喫煙と遺伝子という環境因子によって関節リウマチに特異的な免疫反応が誘発されるということが証明されました。
(A new model for an etiology of rheumatoid arthritis: smoking may trigger HLA-DR (shared epitope)-restricted immune reactions to autoantigens modified by citrullination. Klareskog L et al, Arthritis Rheum. 2006 Jan;54(1):38-46.)

喫煙をしていると、関節リウマチになりやすい?
 スウェーデンのPadyukov Lらは、疾患に関連した遺伝子と喫煙と関節リウマチの関係を研究しました。関節リウマチ患者さん858人と健康な1048人を対象に行われました。疾患に関連していると言われている遺伝子の検査と関節リウマチの診断に使われるリウマチ因子を調べるために全参加者の血液サンプルが集められ、参加者は喫煙を含む生活習慣の情報を提供しました。
 その結果、疾患に関連した遺伝子を持つ非喫煙者が関節リウマチを発病する危険は2.8倍で、疾患に関連した遺伝子を持たない喫煙者が関節リウマチを発病する危険は2.4倍でした。疾患に関連した遺伝子を持つ喫煙者は、関節リウマチを発病する危険が7.5倍高く、疾患に関連した遺伝子を2つ持つ喫煙者は危険が15.7倍も増加しました。ある遺伝的素因を持つ方が、喫煙をすることによって、関節リウマチを発病する危険が著しく増加するようです。
(A gene-environment interaction between smoking and shared epitope genes in HLA-DR provides a high risk of seropositive rheumatoid arthritis. Padyukov Arthritis Rheum. 2004 Oct;50(10):3085-92.)

喫煙をしていると、関節リウマチが重症になりやすい?
 英国スタッフォードシャー・リウマチ学センターで関節リウマチの女性患者さん164人を調査した結果によると、関節リウマチの患者さんの中だけで比べても、喫煙者のほうがレントゲン検査や各種検査所見で、関節リウマチがより重症になる傾向があると分かりました。
(Smoking and disease severity in rheumatoid arthritis: association with polymorphism at the glutathione S-transferase M1 locus. Mattey DL et al. Arthritis Rheum. 2002 Mar;46(3):640-6.)

禁煙すると、関節リウマチの症状が和らぐ?
 米ニューヨーク大ランゴーニ医療センターのMark C. Fisherらが2008年、サンフランシスコで開催された米国リウマチ学会(ACR2008)で、禁煙は関節リウマチの症状緩和に有効と発表しました。
 関節リウマチ患者さんのデータ(CORRONA)を集めて検証した研究の成果で、関節リウマチにおける禁煙の効果を明らかにするため、全患者さんについて、喫煙状況と疾患との関連を調べました。
 1万6521人を評価したところ、1万674人(64.6%)が非喫煙者(一度も喫煙していない)、3519人(21.3%)が元喫煙者(かつては喫煙していた)、2328人(14.1%)が喫煙者(現在も喫煙中)でした。

 関節リウマチの病気の勢いを評価するのに用いる臨床疾患活動性指数(CDAI)、圧痛(痛い)関節数(TJC)、腫張(腫れている)関節数(SJC)および身体機能(日常生活がどのくらい障害されているか:mHAQ)などを評価しました。調査の結果、登録時に喫煙者であった2328人のうち、最終診察時に禁煙に成功していたのは328人でした。また、1141人は最終日まで喫煙を継続していました。
 禁煙群(328人)と喫煙群(1141人)を比較したところ、年齢(禁煙群56±12.0歳, 喫煙群54.5±11.6歳)、罹病期間(禁煙群9.5±9.2年,喫煙群8.4±8.8年)、追跡期間(禁煙群3.8±1.5年,喫煙群2.7±1.6年)、生物製剤の使用(禁煙群33.6%,喫煙群40.5%)の各項目で差が見られました。一方、女性の割合(禁煙群71.5%, 喫煙群74.0%)、リウマチ因子の有無(禁煙群78.1%, 7喫煙群9.6%)には、差が見られませんでした。臨床疾患活動性指数(CDAI)は、初回診察時には禁煙群が17.6、喫煙群が18.9と両群間で有意な差はありませんでしたが、最終診察時には、禁煙群(11.5)が喫煙群(14.0)より明らかに病気の勢いが低くなっていました。一方、寛解率は、禁煙群(18.6%)が喫煙群(12.3%)より明らかに高いという結果がでました。喫煙の継続が病気の勢いの上昇と関連があることも分かりました。これらの結果から、禁煙がリウマチ患者さんの症状を軽減するのに有効であることが分かりました。

喫煙の影響は本当?
 これらの結果は欧米の大規模な研究の結果で、私たちには関係がないと思うかもしれません。では実際はどうでしょうか?浜松医科大学附属病院および市立御前崎総合病院に『関節痛』『朝のこわばり』などを主訴に受診した患者さん325名に関して、喫煙の有無と関節リウマチとの関係について解析しました。

 325名のうち、男性84名、女性241名、関節リウマチと診断された方は115名(男性 52名、女性 86名)関節リウマチではないと診断された方は210名(男性 47名、女性158名)でした。
 325名のうち、喫煙者(以前喫煙したことがある(禁煙中)あるいは現在喫煙をしている方)は87名、非喫煙者(いまだかつて喫煙をしたことがない方)は237名でした。このうち、関節リウマチと診断された方は喫煙者87名中41名(47.7%)、非喫煙者73名(30.7%)と喫煙者に多く見られました。また、喫煙者と非喫煙者を比べると、抗CCP抗体(平均値±S.D:喫煙者 345.5±686.1、非喫煙者 147.1±251.7)、リウマチ因子(平均値±S.D:喫煙者 345.5±686.1、非喫煙者 147.1±251.7)、CRP(平均値±S.D:喫煙者 345.5±686.1、非喫煙者 147.1±251.7)、MMP-3(平均値±S.D:喫煙者 345.5±686.1、非喫煙者 147.1±251.7)が高値である傾向が有りました(統計学的には有意差なし)。

 関節リウマチと診断された115名を喫煙者 43名(男性58名、女性28名)、非喫煙者 73名(男性4名、女性69名)に分けて解析しました。
 喫煙者は非喫煙者に比べ、抗CCP抗体(平均値±S.D:喫煙者 136.7±168.9、非喫煙者 108.7±136.7)、リウマチ因子(平均値±S.D:喫煙者 345.5±686.1、非喫煙者 147.1±251.7)、MMP-3(平均値±S.D:喫煙者 150.7±172.6、非喫煙者 118.4±79.6)が有意に高値でした。
 また、抗CCP抗体陽性の関節リウマチ 89名に関して、喫煙者 57名(男性 25名、女性27名、抗CCP抗体 平均値±S.D: 135.1±190.5)、非喫煙者 32名(男性3名、女性61名、抗CCP抗体 平均値±S.D: 165.1±171.2)に分けて解析しました。喫煙者は非喫煙者に比べ、リウマチ因子(平均値±S.D:喫煙者 359.5±675.0、非喫煙者 173.6±276.0)、MMP-3(平均値±S.D:喫煙者 151.4±146.0、非喫煙者 121.8±80.1)が有意に高値でした。

 喫煙をされている関節リウマチの患者さんは喫煙をされていない関節リウマチの患者さんと比べて病勢が高い可能性が示唆されました。

 こういった比較は単純に比較することは困難です。たとえば、喫煙者は男性が多く、女性が少ないことや、比較する時期がまちまちであることなどの問題があります。また、一般人口の関節リウマチの発症率と比較、現在喫煙中の方と禁煙した方では違いがあるかとか、喫煙の量(本数や年数)と関係があるかなど、もう少し細かい調査や解析が必要です。
 しかし、今や喫煙と関節リウマチの発症や活動性との関係が否定できません。また、間質性肺炎などの呼吸器合併症をお持ちの方はやはり禁煙が望ましいですし、感染症の発症とも関連がありそうだと言われています。

これを機会に禁煙してみてはいかがでしょう?

平成23年8月1日 
静岡リウマチネットワーク リウマチ最新情報
    文責 下山
 
生物学的製剤は中止可能か?
内容  関節リウマチの治療は、近年、目覚ましい進歩を遂げ、特に生物学的製剤の出現は今まで治療が困難であった多くの患者さんにとって福音でしょう。しかし、生物学的製剤は高価であり、感染症を中心とする副作用(有害事象)も無視できません。生物学的製剤をいつまで続けるのかとの質問に対する明確な答えはありません。基本的には、可能な限り継続し、より安価で安全な薬剤が開発されるまで、関節破壊を防止し、関節リウマチの活動性を低く保つことが必要であると考えられます。しかしながら、関節リウマチはdrug free remission(ドラック フリー レミッション:薬剤なしの寛解)が究極の目標であり、その前段階として、生物学的製剤で関節リウマチを寛解(治療の継続により元の生活を取り戻した状態)に至らしめ、生物学的製剤を中止した後も、寛解維持(悪化や再発をしないで維持できる)が可能かどうか(bio free remission:バイオ フリー レミッション:生物学的製剤中止後も寛解を維持できている状態にすること)検討されています。実のところ、レミケード®(インフリキシマブ:生物学的製剤の一つ;静岡リウマチネットワーク生物学的製剤の手引きをご参照ください)中止後も非常に良い状態を保っている患者さんもいます。しかし、どのような人なら中止できるのか、中止できる人の割合については、臨床試験という形で証明しなくてはいけません。このことについて、産業医科大学、田中良哉教授のもとRRR(remission induction by Remicade in RA:トリプルアール)試験が行われ、レミケード®休薬後の関節リウマチの活動性検討がなされました。DAS28-ESR<3.2(静岡リウマチネットワークの用語集をご参照ください)の低活動性が6か月間持続した症例につき、レミケード®を中止して経過観察をしました。中止後、52週後に低疾患活動性を維持できた例は55%でした。低疾患活動性を維持できていた例は、維持できなかった例に比べて、若年で、罹病期間が短く、骨破壊の程度は軽かったということが分かりました。発症早期からレミケードを使用して低疾患活動性となった例では中止できる可能性が高まると考えられました。レミケード®を使用して低疾患活動性または寛解を維持できている例は、中止して悪化するかどうかは五分五分です。悪化した29例にレミケード®を再開したところ26例は再び低疾患活動性になりました。一旦、悪化してしまうと少数例では再投与によっても病状をコントロールできなくなる危険性がありますが、患者さんと医師との相談のもとで、休薬に挑戦することも可能と考えられます。注意点として、本研究は、レミケード®に限った研究であり、他の生物製剤に対して同様のことが言えるか不明である点、長期にわたる効果が不明な点があげられます。
 なお、現在、生物製剤中止後の疾患活動性悪化を防ぐための方法を当科(浜松医科大学 免疫リウマチ内科)で検討しています。プログラフ®(タクロリムス:免疫抑制剤の一つ)を使用することで、生物学的製剤中止後の寛解維持率向上が得られるのではないかとの仮説のもと臨床試験を計画中です。結果が得られたら、その際はご報告させていただきます。
鈴木大介
 
米国リウマチ学会、欧州リウマチ学会による新しい(予備)診断基準
内容 リウマチの新しい(予備)診断基準
米国リウマチ学会、欧州リウマチ学会により新しい(予備)診断基準が示された。
関節リウマチをより早期に十分にコントロールする重要であると認識されてきている経緯から、早期診断を目指すものとなっている。国際標準とするためMRI等の項目は採用されていない。以前の診断基準と比して、6週未満でも診断可能、炎症マーカー、抗CCP抗体採用、リウマチ結節、手のこわばり、対称性削除などの相違点がある。ここで最も重要なのは、まず、関節リウマチ以外の疾患を十分鑑別できるかである。関節リウマチでない疾患を関節リウマチと診断するリスクが高くなると言える。特に変形性関節症に注意が必要である。今後、実臨床の場での検証が必要である。(現時点では論文が未公表であり詳細について日本リウマチ学会において検証委員会で検討されることになっている。日本リウマチ学会のホームページにコメントが掲載されている。)

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@ 前提条件
1関節以上の腫脹
  関節リウマチ以外の疾患を鑑別 
A X線評価
  びらん等のリウマチの変化があればRAと診断する。
B X線変化がない症例はスコアを算出し各項目の合計6点以上を関節リウマチとする。
A.関節病変(圧痛または腫脹関節数)
中・大関節 1つ以下   0
中・大関節 2から10  1
小関節   1から3   2
小関節   4から10  3
小関節   10以上   5
B.血清学的検査
 RF、抗CCP抗体 両方陰性 0
 どちらかが低値陽性(正常の3倍以下)2

 どちらかが高値陽性(正常の3倍以上)3
C.滑膜炎の期間
 6週未満 0
 6週以上 1
D.急性炎症反応
 CRPとESRがともに正常 0
 CRPまたはESRが異常  1
*大関節:足、膝、股、手、肘、肩、股関節の計10関節
小関節:MTP、IP、MCP(U〜X指)PIP、手関節の計30関節
(手関節は小関節、第1MCP関節は含まれないことに注意)

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特別編 〜レミケード(R)の効能・効果、用法・用量が追加について〜
内容 レミケード(R)に新しい効能・効果、用法・用量が追加されました。
レミケードの(R)効果はあるがその効果が不十分であったり、効果が減弱してきた患者さまにはレミケードの増量や投与期間の短縮が検討できるようになりました。また、効能・効果に「関節の構造的損傷の防止」が加わりました。
 今回は、レミケード(R)の増量・期間短縮に関して、国内の増量試験の結果を加え、ご案内します。用量や用法の変更にあたっては、段階的に変更する必要があり、主治医の先生と詳しく相談をしてください。

                   ホームページ担当者


レミケードの用法、用量の変更

レミケードは日本で最初に関節リウマチに使用されるようになった生物学的製剤です。TNF-αという関節リウマチの病態に重要な役割を果たしているものを抑える働きがあります。その効果は広く認められています。しかしながら、レミケードを投与しても十分な効果が得られない方や、投与中に効果が減弱してくる方、投与が2カ月おきになると2カ月効果が持続しない方がいることが問題でした。今までの使用法は体重1kgあたり3mg(体重50kgなら150mg)を0週、2週、6週点滴し、その後8週おきに点滴する方法でした。
今回、2009年7月からこれらの使用方が改定され、6週以降の増量や、期間の短縮が認められました。具体的には、今まで通り8週ごとの場合は体重当たり10mgまで使用可能です。投与間隔を短くする場合は4週ごとまで短縮可能ですが、投与量は体重当たり6mgまでとなります。(したがって、体重当たり10mgを4週ごとは認められていません。)
投与量や投与期間の短縮は段階的に行うこととなっており、副作用に注意して慎重に見てゆく必要があります。
用量増加の効果について
国内の試験:体重当たり3mg、6mg、10mgで有効率はそれぞれ78.6%、83.7%、90.4%でした。10mgまで増量することで有効性が増しました。X線の骨破壊の抑制は、増やせば増やすほど良くなるというわけではありませんでした(3mgと10mgで差なし)。当初3mgで効かなかった方、約12%が6mgで半数が有効、10mgで全例有効となり、3mgで効かなかった方でも増量が有効となる可能性が示されました。有効性は血液中のレミケード濃度が、やはり重要なようです。重篤な有害事象の発現率は3mg/kg群では7.1%、6mg/kg 群では4.8%、10mg/kg 群では8.7%であり差はありませんでした。
海外でも同様な結果が示されています。
期間短縮は実際には試験されていませんが血液中のレミケード濃度のシミュレーションによって認められています。

期間短縮や用量増加によってレミケードの有効性をより高めることができそうです。重篤な副作用の増加も試験ではありませんでしたが、理論的には副作用増加が懸念され、時間当たりに入るレミケードの量が増えることも投与時反応増加が懸念されます。関節破壊の抑制効果には用量依存性がなかったことからも、個々の病状に合わせて慎重に使ってゆく必要があると考えられます。用量増加によって医療費負担が増加する可能性があり、高額療養費を使える投与法にするなどの工夫も求められそうです。

 
第二回 アバタセプト(Abatacept)CTLA4Ig
内容 アバタセプト(Abatacept)CTLA4Ig
CTLA4は免疫反応で重要な役割を果たすT細胞の上にでているタンパクです。このタンパクに刺激が加わるとT細胞機能が抑制されます。一方でCD28というタンパクもT細胞の上に出ており、こちらに刺激が加わるとT細胞機能が活性化されます。T細胞機能は関節リウマチでは活性化しています。したがって、関節リウマチを良くするにはT細胞機能を抑制の方向に持って行けばいいのではないかと考えられます。すなわち、CTLA4を刺激するか、CD28の刺激を弱める方法が考えられます。CTLA4とCD28への刺激はいずれもB7と呼ばれる同じタンパクによって引き起こされます。CTLA4が多くなると、CD28はCTLA4との争いに負けてしまい、相対的にT細胞機能に抑制的な刺激が加わってT細胞機能は抑制されます。アバタセプト(CTLA4Ig)はCTLA4とヒト免疫グロブリンを人工的に融合させたもので、これを投与するとCTLA4が多くなるためT細胞機能が抑制され、関節リウマチに有効であると期待されています。2005年に米国で承認され、ブリストル・マイヤーズ・スクイブ社からオレンシアという名前で海外では関節リウマチに使用されています。今までにない作用を持っているため、使用できるようになれば治療の選択の幅が広がるものと期待されます。
(参考)海外臨床試験:投与方法は10mg/kgを初回投与後、2、4週後に投与し後は4週毎に点滴。
AIM試験 :MTX(メソトレキセート)効果不十分例に対する試験
MTX不十分例にMTXと併用してアバタセプトかプラセボ(偽薬)を投与した。6か月の時点でACR20改善率はアバタセプト群67.9%、プラセボ群39.7%でアバタセプト群の方が優れており(ACR50が約40%ACR70が約20%)、これは1年間持続。骨破壊の進行も約50%抑えられた。副作用は感染、投与時の反応がプラセボに比べ多かった。Kremer JM, et al., Ann Intern Med 2006; 144(12): 865-876
ATTAIN試験:抗TNF-α療法で効果不十分な症例を対象。
6か月の時点のACR20改善率はアバタセプト群で50.4%であり、プラセボ群の19.5%に比べて高かった。ACR50とACR70の改善率もアバタセプト群で有意に高かった(ACR50:20.3% vs 3.8% ACR70:10.2% vs 1.5%)。抗TNF療法が不十分な症例でもアバタセプトは有効である可能性がある。Genovese MC, et al., N Engl J Med 2005; 353(11): 1114-1123
ATTEST試験:アバタセプト、インフリキシマブ(レミケード)、偽薬の比較をした試験
投与開始後197日(約7カ月)でアバタセプトとレミケード(3mg/kg、8週毎)に差はなかったが1年後の有効性はアバタセプトの方が勝っており、副作用もインフリキシマブに比べてアバタセプトでは少なかった。Schff M, et al., Ann Rheum Dis 2008;67(8):1096-1103
ARRIVE試験:抗TNF療法無効例で抗TNF療法後直接切り替えていいか検討した試験
最後の抗TNF療法後から2カ月以上あけてアバタセプトを投与した群とそうでない群とで有効性や副作用に差はなかった。Schff M, et al., Ann Rheum Dis 2008 Dec 15

*日本人の用量、用法については承認後に確認してください。
 
第一回 ゴリムマブ(Golimumab)
内容 ゴリムマブ(Golimumab)
 完全ヒト型の抗TNFα抗体であり、ヒュミラ®と似ています。作用はレミケード®やヒュミラ®と同じく、TNFαを中和し、産生する元を抑え、TNFαを引き剥がすことで関節リウマチを改善させるといっていいでしょう。現在治験が進行中です。
特徴として、ヒュミラ®より投与間隔が長い4週ごとがあげられます。4週ごとの皮下投与は患者さんの負担軽減につながると期待されます。しかし、半減期の長い薬剤は止めてもその影響が長く続くという側面もあります。海外の試験をみると、有効性はMTX(メソトレキセート;リウマトレックス®など)単独よりあるようです。単剤よりMTX併用の方がやはり有効のようです。副作用は感染症に注意が必要なことは変わりありません。MTX併用例で感染のリスクが高いようです。ゴリムマブ単剤では投与量を増やさないと十分な効果が出ないようです。逆に、ゴリムマブとMTXを併用した場合には100mgと50mgで大きな差はなく、100mgで重篤な副作用が多い印象です。日本人では治験中ですので、その結果を待たなければなりません。

文献@
0.1、0.3、1、3、6、10mg/kgを静脈内単回投与し血液中の濃度を測定した。36名で行われた。半減期は7−20日で、この試験での問題となる副作用はなかった。
Pharmacokinetics and Safety of Golimumab, a Fully Human Anti-TNF- Monoclonal Antibody, in Subjects With Rheumatoid Arthritis                  Zhou H. J. Clin. Pharmacol.2007

文献A
MTX治療で不十分なRAを対象とした試験。皮下注射で50mg、100mgを2週毎もしくは4週ごとに投与。MTXは併用。48週(1年間観察)2週ごとの群は16週後に4週に変更。16週後の関節リウマチの改善度を評価した。16週後のACR20は ゴリムマブ+MTXで61%、プラセボ(偽薬)+MTXで37%であった。100mgを2週ごとの群でみると79%であった。20週までに重大な副作用はゴリムマブ群で9%、プラセボ群で6%であった。
Golimumab in patients with active rheumatoid arthritis despite treatment with methotrexate: a randomized, double-blind, placebo-controlled, dose-ranging study.            Kay. J  A &R 2007
文献B
MTXで不十分なRAを対象。プラセボ+MTX、50mg+MTX、100mg+MTX、100mgの4群
ゴリムマブは4週毎皮下注射。14週でのACR20と24週でのHAQ-DIスコア(日常生活の障害を調査)を評価した。
14週でのACR20改善率はMTXのみ33.1、100mgのみ44.4、50mg+MTX55.1、100mg+MTX56.2%であった。HAQ-DI scores は それぞれ0.13, 0.13 (p=0.240), 0.38 (p<0.001)、0.50 (p<0.001)であり、16週までの重篤な副作用はそれぞれ 2.3%, 3.8%, 5.6%, 9.0% 、重篤な感染症は 0.8%, 0.8%, 2.2% 5.6%であった。
Golimumab, a human antibody to TNF-{alpha} given by monthly subcutaneous injections, in active rheumatoid arthritis despite methotrexate: The GO-FORWARD Study.
Keystone EC Ann Rheum Dis. 2008

その他:
ステロイドでコントロール不十分な喘息における試験
 有効性に乏しく、重篤な感染症が多かった。
強直性脊椎炎
有効と考えられた。重篤な有害事象の増加はないが、ゴリムマブで一過性の肝障害が多かった。

                     (文責:鈴木大介)

 
リウマチ最新情報 〜はじめに〜
内容 新しい生物学的製剤の紹介
 現在日本で保険承認されている生物学的製剤(化学的な薬品でなくタンパクによる薬品)は、抗TNFα製剤であるレミケード®、ヒュミラ®、TNF受容体のエンブレル®、IL-6受容体のアクテムラ®の4剤です。いずれも関節リウマチに対する優れた効果が認められています。今後、同じような作用、または、まったく新しい作用を示す生物学的製剤が開発されています。これによって、副作用の軽減や、有効性の向上、既存の薬剤が効かない、または、副作用で使用できない場合に、これらの新規薬剤が使用できる可能性があります。治験の段階である薬剤であり、十分な安全性と効果を評価する必要がありますが、新規生物製剤として期待されている薬剤を、すでに海外論文などで報告されているデータをもと紹介していきたいと思います。あくまでも海外での有効性と副作用等のデータですので、そのまま日本にあてはめることはできません。こんな薬剤が将来登場するかもしれない、よりよい治療法と選択肢が増えるかもしれないと明るい未来を期待をしてください。まず、第一回目はゴリムマブを紹介します。
                       (文責:鈴木大介)
 
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