パーキンソン病の外科手術法
脳深部刺激術の場合
手術の流れ
手術は以下の手順で行います。
- フレームの取り付け
朝8時に、病棟にて、頭部に頭をきちんと固定するための金属製の枠(フレーム)を取り付けます。これは、頭の4箇所にピンを打ち込み、強固に固定するものです。そのため、局所麻酔を注射します。フレームを頭に正確に取り付けるために、両方の耳の穴に棒を差し込み、これを基準にしてフレームを取り付けます。耳の穴に差し込んだ棒が少し痛いかもしれません。フレームをつけ終われば、痛みもなくなります。フレーム装着時の痛みを和らげるため、静脈麻酔薬(ディプリバン)にて少し眠った状態で装着を行います。
- MRI撮影
病棟を出たら、頭にフレームをつけた状態で、まずMRIを撮影します。手術の目標を決める際の参考となる写真となります。
- 手術室へ移動
MRIから直接手術室へ移動します。手術室で専用のベッドの上に横になっていただきます。フレームをベッドに固定し、頭が動かないようにします。ここで静脈麻酔薬(ディプリバン)を注射し、眠った状態で手術を開始します。
- 手術開始
頭皮に局所麻酔を注射し、皮膚を切開し、頭蓋骨に親指の頭くらいの大きさの穴をあけます。この穴を通じていろいろな操作を行います。
- 目標となる場所を探す
セミ微小電極を頭蓋骨に空けた穴から挿入し、脳の目標となる部位の細胞活動を記録します。眠った状態では細胞活動が記録できないので、静脈麻酔は切り、いったん目覚めていただきます。脳は痛みがないところですので、電極の挿入に伴った頭痛などの苦痛はありません。このデーターを元に、目標となる場所がどこにあるのか決定します。 場所を同定後、刺激による副作用(手足の強直やしびれ感)が起こらないかテスト刺激を行います。
- 刺激電極を設置する
のデーターを元に、刺激用の電極を脳内に挿入し、強固に固定します。その後、頭部につけたフレームを外します。その後、全身麻酔をかけて、眠っていただきます。
- 電池、刺激発生装置を埋め込む
胸の鎖骨の下を切開し、この皮下に電池と刺激発生装置がひとつになった装置を埋め込みます。心臓ペースメーカーくらいの大きさです。この装置と頭部に設置した電極を電線で結び、皮下に埋め込みます。
または、腋の前側を切開し、大胸筋の下に刺激装置を埋め込みます。この方法だと外から見て刺激装置が入っていることが大胸筋に隠れて分かりにくくなります。ただ、交換の際には全身麻酔が必要となります。
手術後7日から8日目に抜糸となります。
- 刺激装置の調節(脳深部刺激手術の場合)
手術後7日目以降に刺激装置の調節を行います。
脳内に挿入した刺激電極には4箇所の刺激電極がついています。これらのうちどの電極を使用したら良好な結果が得られるか検討します。方法としては、4つの電極を順番にひとつずつ刺激して、反応を比較検討します。
調節が終わったら、退院可能となります。
手術に伴う合併症(危険性)について †
大きく頭の骨をあけるような手術ではないので、危険性が高いわけではありませんが、以下の可能性が考えられます。
- 出血
脳に電極を挿入することで、脳血管を傷つけ、出血が起こる可能性があります。その影響で、手足にマヒが残ったり、言語障害が起こる可能性があります。場合によっては生命に関わる可能性もあります。当院では、約2%の方にこのようなことがありましたが、幸い生命に関わるような事態にはなりませんでした。
- 感染
手術で皮膚を切開することにより、細菌が脳内に入り、髄膜炎や脳炎を起こす可能性があります。特に、電気刺激術を行った場合、電極や刺激発生装置を体内に埋め込む形になりますが、これらが細菌の温床になりやすいです。もし細菌が入った場合、いったん埋め込んだ電極や刺激発生装置は除去する必要があります。当院では今までに約1%の方にこのようなことがありました。
- 神経症状
特に、左右の両側の凝固術を行った場合、呂律が回らなくなる(構語障害)、物が飲み込みにくくなる(嚥下障害)が起こる可能性があります。
また、時に手足のマヒ、しびれ感が起こる可能性があります。
特に視床下核手術を行った場合、術後一過性に精神症状(幻覚や自分の置かれている立場がわからなくなる)が起こることがあります。