<研究の概要>浜松医科大学で開発されたナノスーツ先端の電子顕微鏡技術を用いて、水いぼの病理検査で使われるFFPE(ホルマリン固定パラフィン包埋)組織標本上で高精度に可視化することに成功しました。本研究機能している様子が可視化され、そのバリアが破綻するとウイルスが皮膚内部に侵入しやすくなることが明らかになりました。 <研究の背景>水いぼ(伝染性軟属腫)は、“Molluscum 小児に多くみられ、5〜10%の子どもが一度は感染するとされています。アトピー性皮膚炎や湿疹など、皮膚のバリア機能が低下してBreak in g R esearch12NEWSLETTER光医学総合研究所尖端生体イメージング研究部門ナノスーツ開発研究分野 准教授河崎 秀陽園や学校などでの集団感染もたびたび報告されています。従来、水いぼウイルスの存在や構造に関しては、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた研究が行われてきましたが、TEMではウイルス粒子の断片的・平面的な情報に限られ、広範な角質層表面との立体的関係を明確に観察することは困難でした。<研究の成果>本研究では、通常のヘマトキシリン・エオシン染色されたFFPE切片を対象に、光学顕微鏡で水いぼ病変部位を確認した後、カバーガラスを除去し、ナノスーツ溶液を滴下・薄膜化しました。続いて同一部位を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy: SEM)で観察しました。本手法は切片を非破壊的に観察できるため、SEM観察後も標本を保存可能です¹。その結果、ナノスーツ-CLEMにより、同一切 片でM C V 粒 子の分 布を明らかにし(図1)、さらに皮膚表面のバリアである角質層とウイルス粒子との立体的な相互関係を可視化することに成功しました。特に、ウイルスが角質層表面に一時的に留まり、バリアが破綻した箇所から内部に侵入する様子が世界ではじめて視覚的に明らかになりました(図2)²。このような感染メカニズムの見える化は、皮膚バリアの重要性を科学的に裏付けるだけでなく、「かかない」 といった予防行動の啓発にもつながる重要な成果となりました。<今後の展開>今回の成果は、SEMを用いたナノスーツ-CLEM技術により水いぼウイルスの立体的な侵入様式を明らかにし、皮膚バリアの重要性を見える化したものです。この研究は、子どもや保護者、教育現場での感染予防啓発に、科学的根拠を提供するものとして活用が期待されます。また、ナノスーツ-CLEMは通常の病理検査で使われるFFPE組織標本に対応しており、多様な疾患モデルや臨床検体への応用が可能です。今後、構造と機能の視覚化という新たなアプローチとして、病理の理解を深めることに大きく貢献すると考えられます。<参考文献>1. Kawasaki H, et al. The NanoSuit method: a novel histological approach for examining paraffin s e c t i o n s i n a n o n d e s t r u c t i v e m a n n e r b y correlative light and electron microscopy. Lab I n v e s t . 2 0 2 0 J a n ; 1 0 0 ( 1 ) : 1 6 1 - 1 7 3 . d o i : 10.1038/s41374-019-0309-7. 2. Sakano Y, Kawasaki H. V isualization of Molluscum Contagiosum Virus in FFPE Skin Sections Using NanoSuit-CLEM: Ultrastructural Evidence of V iral Spread via Skin Barrier Disruption. Immun Inflamm Dis. 2025 Jun;13(6):e70212. doi: 10.1002/iid3.70212. -CLEM(光-電子相関顕微鏡法)という最(伝染性軟属腫)の原因ウイルスを、通常により、皮膚の最外層である角質層(皮膚バリア)がウイルスから体を守るバリアとしてこれは、感染メカニズムの視覚的証拠として示されました。Contagiosum Virus(MCV)”というウイルスによって引き起こされる皮膚感染症で、特にいる子どもでは感染リスクがさらに高く、保育研究最前線「“かいちゃダメ”は本当だった!」ナノスーツ-CLEMがとらえた水いぼウイルスと皮膚バリアの攻防
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