浜松医科大学 NEWSLETTER 2022.3 (Vol.48 No.2)
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5NEWSLETTER<研究の概要><研究の背景>学生表彰された大石真子さん(右)(本学医学部医学科4年生)<研究の成果><今後の展開>胃と十二指腸でのリン酸ランタン沈着大腸での血清カリウム抑制剤の沈着本学ナノスーツ開発研究部(河崎秀陽部長、針山孝彦特命研究教授)、本学腫瘍病理学講座(新村和也准教授)、本学医学部(大石真子(医学部医学科4年生)(図1))らは、新たな手法(ナノスーツCLEM法と元素分析法の融合)で血清カリウム抑制剤(陽イオン交換樹脂製剤)や炭酸ランタン製剤の消化管沈着症例を簡便かつ正確に診断できることを明らかにしました。血清カリウム抑制剤は血液中のカリウムを減らす薬剤として腎不全患者に頻用されますが、まれに消化管穿孔など重大な副作用を起こします。また炭酸ランタン製剤は血中リンを減少させる薬剤として知られ、比較的最近の2015年に消化管沈着症を引き起こすことが報告されました。病理診断時における正確で早期の発見は、服薬中止・変更を促すことにつながり、より重大な副作用を防ぐことができます。この新手法の技術的成果は北米病理学会の機関誌「Laboratory Investigation」の表紙として紹介され、臨床応用の成果はスイスMDPI社の国際学術誌「Diagnostics」に2報掲載されました。急性・慢性腎不全患者は、腎臓の働きが悪くなるためカリウム・リンを十分に体外に排泄できなくなります。そのため高カリウムや高リン血症の治療薬として、血清カリウム抑制剤や炭酸ランタン製剤が頻用されています。血清カリウム抑制剤は腸管内で薬剤に含まれる陽イオンをカリイオン結合能の違いなどを利用して鑑別診断が可能となり、類似薬剤の鑑別にも役立つことがわかりました。今後、血清カリウム抑制剤を含めたイオン交換樹脂製剤、炭酸ランタン製剤のみならず、原因不明の消化管沈着症の診断に役立つことが期待されます。また他の臓器の重金属や薬剤の沈着症に対する診断として応用できる可能性が高く、病理診断の新たな手法として展開されるように研究推進して参ります。Breaking Researchウムイオンと交換し、カリウムイオンを体外へ排泄させ、血中カリウム値を下げる作用があります。一方、副作用として、まれに便秘、腸閉塞、大腸潰瘍、腸管穿孔があり、便秘を起こしやすい患者、腸管狭窄のある患者、消化管潰瘍のある患者の服用患者は慎重投与の対象となっています。また炭酸ランタン製剤は、胃内で食物に含まれるリンを吸着し便中に排泄し、血中リン濃度低下につながります。この薬剤も消化管沈着を引き起こしますが、明らかな病態はわかっていません。 これらの薬剤服用者は症状の有無に関わらず消化管内視鏡検査、生検診断を行い検査することがあります。従来の病理診断では光学顕微鏡を用いて、薬の結晶の形態観察、ヘマトキシリン・エオジン染色や特殊染色とあわせた染色パターン、服薬履歴などの情報を総合的に判断し診断していました。従来法では正確な診断に至るまでに時間と手間がかかることや、鑑別・確定診断が難しいことがありました。血清カリウム抑制剤沈着・ランタン沈着が疑われた患者から採取された消化管組織のホルマリン固定パラフィン包埋薄切切片を用いました。光学顕微鏡検査で結晶部位を確認し、ナノスーツ溶液を滴下後、光学顕微鏡で確認された同部位を非破壊的に走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy (SEM))で観察しました(ナノスーツ 光-電子相関顕微鏡法(NanoSuit-CLEM法))。ナノスーツ溶液塗布により、電子顕微鏡内において安定的な観察につながります。元素分析はエネルギー分散型X線分析(Energy dispersive X-ray Spectrometry(EDS))装置にて解析しました。その結果、簡便・迅速にランタン元素(図2)、血清カリウム抑制剤の持っている硫黄元素(図3)を沈着部位特異的に検出することができました。更に薬剤への図1図2図3ナノスーツ開発研究部 部長NanoSuit-CLEM法を使用したSEM-EDS分析によって示された胃および十二指腸粘膜におけるリン酸ランタン沈着。左の列の画像は、粘膜の明るい領域を示す反射電子像です。中央と右の列の画像は、それぞれランタン(La)とリン(P)の堆積を示すSEM-EDS分析を使用した元素マッピング画像です。スケールバー=25μm。血清カリウム抑制剤沈着が疑われるH&E染色された大腸粘膜の光学顕微鏡による画像(上段左)。同部位の反射電子像(上段中)。陽イオン交換樹脂製剤化学式(上段右)。NanoSuit-CLEM法を使用したSEM-EDS分析によって示された大腸粘膜の硫黄沈着(下段左)。結晶部のスペクトラム(下段中)。バックグラウンドのスペクトラム(下段右)。血清カリウム抑制剤沈着が疑われる患者のNanoSuit-CLEM法を使用したSEM-EDS分析(9名)。結晶部とバックグラウンドの硫黄元素の重量%の比較。リン酸ランタン沈着が疑われる褐色色素沈着を含むH&E染色された胃および十二指腸粘膜の光学顕微鏡による画像。右の列の画像は、左の列の画像の□で囲まれた領域を拡大したもの。粒状、針状、または無定形構造を示す堆積物は、それぞれ矢頭、矢印、アスタリスクでマークされています。スケールバー=20μm(左); 10μm(右)。 河崎 秀陽研究最前線消化管に沈着した薬剤をナノスーツ元素分析法で正確/簡便に診断

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