神経生理学

トピックス

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研究概要

Cl-ホメオスタシス調節による神経回路機能の発達・可塑性の制御の証明およびその破綻による脳神経疾患の病因・病態の解明:
中枢神経系の最も主要な抑制性神経伝達物質であるGABAが、神経細胞の発生期にはシナプスを介さないparacrine的な作用で脱分極とCa2+流入を惹起して神経細胞への分化や細胞移動を促したり、その後の神経回路形成期には興奮性伝達物質としてシナプスの形成・強化に関与する可能性が近年示唆されている。すなわち、GABAには発達段階に応じた3つの異なった役割があり、神経系の発達初期におけるその役割は古典的概念の抑制性伝達物質とは大きく異なっている。我々はその機序として回路形成期に特異的なCl-ホメオスタシスとその発達的変化、すなわちCl-トランスポーターがCl-ホメオスタシスを変化させることによりCl-をチャージキャリアとするGABA作用の興奮/抑制の調節を行い、神経回路の形成や機能の発達に積極的に関与しているのではないかと考えている。まずGABAを興奮性に作用させて回路構築を促し、その後にそれらを抑制性に変化させることにより成熟型の神経回路網を完成するという仮説である。
 細胞内Cl-濃度が低下し、GABAが抑制性に作用する成熟した脳においても、様々な可塑的変化の局面において細胞内Cl-の過剰かつ持続的上昇がおこるとGABAの抑制作用が減弱・消失したり或いは逆に興奮性に作用したりすると考えている。さらにこれは、グルタミン酸作動性の興奮性入力の脱抑制を来たし、positive-feedback loopを形成して連鎖興奮性回路となる可能性もある。
 以上のような考えに基づき、てんかん,大脳皮質形成異常,周産期低酸素性虚血性脳症,脳虚血,精神神経疾患などの病因・病態や後遺症の発生にCl-ホメオスタシス調節機構の破綻が何らかの形で関与しているのではないかと考えている。また、種々のストレスや環境化学物質、麻酔薬などの薬物が、神経回路の発達や機能にどの様な影響を与えるのか、その機序についても興味を持っている。さらに、損傷を受けた神経の再生時にも発達期と同様の状態、すなわち成熟型から幼若型へのCl-ホメオスタシスの回帰現象が起こり神経回路の再生が起こるのではないかと考えている。
 上記の仮説を実証するため、発達・再生・可塑性あるいは病態モデルの脳スライス標本に細胞内Cl-濃度、細胞内Ca2+濃度や膜電位の光学的イメージング法,グラミシジン穿孔パッチクランプ法などを応用し、Cl-ホメオスタシスの変化と神経回路機能変化の関係をリアルタイムで神経回路レベルで測定している。また、in vivo electroporation法や遺伝子改変マウスを用いて、特定の分子あるいは細胞をGFPで蛍光標識して、その挙動を共焦点イメージング法で解析している。さらにCl-ホメオスタシスに関わるCl-transporter,Cl-channelやGABA/glycine receptor,シグナル伝達因子等をin situ hybridization法、single-cell multiplex RT-PCR法を用いて遺伝子レベルで解析する事により、神経回路機能の発達・再生・可塑性・病態メカニズムにおけるニューロンやグリアのCl-ホメオスタシス調節とGABA作動性興奮の役割を明らかにしようと試みている。

教授挨拶

はじめに

福田教授写真

 産婦人科での臨床経験から胎児の脳の発達と周産期脳障害の病態に興味を持って以来,脳の機能的発達過程とその病態生理が研究テーマ。
 特に最近は,細胞内Cl-イオン濃度を調節する分子(Cl-トランスポーター)と抑制性神経伝達に着目し、このCl-ホメオスタシス維持機構による抑制-興奮バランスの調節が脳機能の正常な発達を促し、一方でその破綻が種々の脳機能の異常や発達障害をもたらすのではないかと考えています。
 そうしたことから、昨今の青少年の凶悪犯罪や学級崩壊などに対する教育的問題も発達神経科学的視点で何とか脳科学的問題として研究できないかと日々考えているところです。
 技術論的には細胞内イオンや膜電位の光学的イメージングを脳スライスに応用しパッチクランプや分子生物学的アプローチと併せて研究しています。
 今後はGFPやFRETによる分子標識を取り入れたいと思っています。
 楽しい雰囲気で一緒に研究してくれる人を求めています??