静岡リウマチネットワーク
 

HBVに関する読売新聞の報道について

 9月8日の読売新聞で『治癒B型肝炎、新薬治療で劇症化…18人死亡』との新聞記事が掲載されました。これに伴い、日本リウマチ学会からの見解が同日の日本リウマチ学会のホームページに掲載されました。
 また、9月6日には同学会ホームページに『B 型肝炎ウイルス感染リウマチ性疾患患者への免疫抑制療法に関する提言(医療従事者用)』が掲載されております。
 9月8日の読売新聞の記事、日本リウマチ学会のコメント(Q&A)を掲載致しますので、参考にしていただければと思います。また、ご自身について、不安のある方に関しましては、突然薬剤を中止することは危険ですので、自己判断で薬剤の中止などすることなく、主治医の先生に相談していただくようお願い申し上げます。
            静岡リウマチネットワーク 事務局


2011年9月8日 読売新聞 記事
 治癒B型肝炎、新薬治療で劇症化…18人死亡

 いったん完治したと考えられていたB型肝炎が、リウマチや血液がんなどの治療薬で体の免疫が低下したことをきっかけに再発し、劇症肝炎を起こして死亡する例もあることが厚生労働省研究班(研究代表者・持田智埼玉医大教授)などの調査でわかった。
 近年、強い免疫抑制作用のある新薬や治療法が相次いで登場し、治療効果を上げているが、想定外の肝炎の再発の危険が明らかになり、ウイルス検査体制の整備が緊急の課題となっている。
 B型肝炎ウイルスの感染歴のある人は50歳以上では約2割、全国で1000万人以上とみられる。うち100万〜130万人が血中にウイルス抗原が検出される持続感染者(キャリアー)とされる。問題なのは感染しても自然に治り、自分でも感染したことを知らない人も多いことだ。
 だが、治ってもウイルスの遺伝子は体内に潜み続ける。近年、免疫抑制効果の高い薬が相次いで登場し、治療をきっかけに再発する例が出てきた。
 研究班が2010年度から、全国約100施設で感染歴のある患者235人を調べたところ、リウマチや血液がんなどの治療中に14人(6%)でウイルスが再活性化していた。
 厚労省研究班の劇症肝炎の全国調査では、04年から09年にB型肝炎ウイルスの感染歴がある17人が、悪性リンパ腫や白血病、乳がんなどの治療をきっかけに劇症肝炎を発症していた。これとは別に09年、兵庫県内で感染歴のある70歳代の女性がリウマチの治療後に劇症肝炎を起こしたという報告がある。いずれも通常の劇症肝炎より治療が難しく、全員が死亡した。再活性化の実態調査は、これを受け、急きょ実施された。(2011年9月8日03時02分 読売新聞)




同日 日本リウマチ学会のコメント
 HBV に関する読売新聞の報道について

 平成23年9月8日木曜日、読売新聞朝刊に「治癒肝炎 新薬で劇症化」「リウマチ・が ん治療薬 B 型18人死亡」の記事が掲載されました。B 型肝炎ウイルスの既往感染患者に おける化学療法・免疫抑制療法中の B 型肝炎ウイルス再活性化に関する内容ですが、あた かも関節リウマチに使用されている新薬(生物学的製剤)が非常に危険であるかのような 誤った見出しで報道されています。
患者様、ご家族の方、一般の方に本件を正しくご理解頂き、安心な治療を受けて頂くた めに、日本リウマチ学会では以下の Q&A を用意いたしましたので、参考にしてください。


質問1 B 型肝炎ウイルスの再活性化とはどのようなことですか?

回答1 B 型肝炎ウイルスに感染すると、多くの方では肝炎の症状を起こさずにウイルスは 体内から排除され、なおります(治癒)。また、一部の方では、急性肝炎を発症した後にな おります。このように、B 型肝炎ウイルス感染がなおった方を既往感染者と呼び、この状態 を俗に治癒肝炎といいます。しかし、既往感染者でも、B 型肝炎ウイルスの遺伝子の一部が 肝臓の細胞中に残ってしまうことが分かってきました。一方で、B 型肝炎ウイルスに感染後、 ウイルスが完全に排除されず、肝炎を発症しないまま体内にウイルスを保有し続ける場合 があります。このような方を持続感染者(キャリア)と呼びます。これらの既往感染者や キャリアが、化学療法や免疫抑制療法を受けている間あるいは終了後に、血中の B 型肝炎 ウイルスが検出されるようになる、あるいはウイルス量が増加してくる場合があり、これ を B 型肝炎ウイルスの再活性化と呼びます。血中の B 型肝炎ウイルス量が十分に増加する と、肝炎を発症する場合があります。このうち、劇症肝炎とは急速に肝不全に至る肝炎を 指しますが、すべての肝炎発生例が劇症化するわけではなく、実際にはきわめてまれです。


質問2 キャリアと既往感染者はどのように診断するのですか?

回答2 いずれも血液検査で診断します。HBs 抗原が陽性であればキャリア、HBc 抗体、 HBs 抗体のいずれかが陽性であれば既往感染と診断します。ただし、B 型肝炎ワクチン接 種者では HBs 抗体が陽性になるので、注意が必要です。これらの検査が陽性の場合には、 B 型肝炎ウイルスの DNA 量を調べるなどのさらに詳しい検査をします。


質問3 今回の新聞で報道されたような、治癒肝炎からの劇症化は、生物学的製剤を使っ た関節リウマチ患者では、どのくらいの頻度でおこりますか?

回答3 現在までに、わが国では10万人以上の関節リウマチ患者が生物学的製剤を受け ました。これらの方の約7~8割は副腎皮質ステロイドを、5~6割はメトトレキサート を使用しています。その中で、B 型肝炎ウイルスの既往感染者からの劇症肝炎の発症が確認
されたのは、2010 年に報告された1例のみです(0.001%以下)。この患者さんも生物学的 製剤のほかに、副腎皮質ステロイド、メトトレキサートなどを使用しており、どの薬剤が 原因で発症したかは科学的な結論はでていません。生物学的製剤で起きたと断定した読売 新聞の記事の見出しは、医学的に間違っており、訂正が必要です。


質問4 関節リウマチ患者では、キャリアと既往感染患者で B 型肝炎ウイルス再活性化の 危険性は違いますか?

回答4 B 型肝炎ウイルスの既往感染者とキャリアを区別して考えることが大切です。質問 3でお答えしたように、関節リウマチでは B 型肝炎ウイルス既往感染者からの再活性化に より劇症肝炎が発症することは非常にまれです。たとえ関節リウマチ治療中に B 型肝炎ウ イルスの再活性化が起きた場合でも、抗ウイルス薬で治療することによってウイルス量は 減少・正常化します。一方、キャリアの場合には、すでに血中にウイルスが検出される状 態ですので、再活性化が起きた場合にウイルス量が多くなり、肝炎を発症しやすくなりま す。日本リウマチ学会では、キャリアを含む B 型肝炎ウイルス感染者に対しては生物学的 製剤を投与すべきではないことをガイドラインなどで示してきました。あらかじめキャリ アであるとわかっている場合は、関節リウマチの治療前にかならず主治医に申告していた だく必要があります。またキャリアと診断された場合には、あらかじめ肝臓の専門医によ る抗ウイルス薬による治療を行ったのちに、関節リウマチの治療を開始することを検討し ます。


質問5 生物学的製剤の治療中に、どうやって肝炎の発生をモニタリング(監視)します か?
回答5 一般的には、外来で行う血液検査で肝機能検査値の推移を調べます。キャリアや 既往感染者では、必要に応じて、B 型肝炎ウイルスの DNA 量を追加で調べる場合もありま す。ただし、この検査のキャリアや既往感染者に対する保険適応はまだ承認されていませ ん。


質問6 リウマチの治療に使う他の薬剤でも B 型肝炎ウイルス再活性化の可能性はありま すか?

回答6 メトトレキサートを B 型肝炎ウイルスキャリアに投与した場合に肝炎や劇症肝炎 を発症する症例が報告されています。したがって、メトトレキサートの添付文書では、B 型 肝炎ウイルスキャリアへの対応が「重要な基本的事項」として記載されています。日本リ ウマチ学会では、「関節リウマチ診療におけるメトトレキサート診療ガイドライン」を公表 し、肝障害を有する患者は投与禁忌、キャリアはメトトレキサート投与を極力避ける、抗 ウイルス薬による治療を先行させることなどを明記しています。


質問7 生物学的製剤と B 型肝炎再活性化の問題に関して、日本リウマチ学会ではどのよ うに対応していますか?

回答7 日本リウマチ学会では、「関節リウマチに対するTNF阻害療法施行ガイドライン」、 「関節リウマチに対するトシリズマブ使用ガイドライン」、「関節リウマチに対するアバタ セプト使用ガイドライン」を公表し、キャリアを含むB型肝炎ウイルス感染者に対しては生 物学的製剤を投与すべきではないことを示してきました。
また、「B 型肝炎ウイルス感染リウマチ性疾患患者への免疫抑制療法に関する提言」を作 成し、学会ホームページ上に公開して、学会員からのパブリックオピニオンを収集中です。 この提言では、リウマチ性疾患患者における HBV の再活性化を防止するために現時点まで に得られた科学的エビデンスをもとに、B 型肝炎ウイルスキャリア・既往感染患者の診断、 モニタリング、治療、日本肝臓学会専門医との連携などについてリウマチ治療医を対象に 具体的な指針を示しています。
なお、生物学的製剤の添付文書には、B 型肝炎ウイルスキャリアへの対応が「重要な基本 的事項」として記載されています。

           平成23年9月8日
                日本リウマチ学会理事長 宮坂信之



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